第3話『写らぬ顔』

『写らぬ顔』


むかしむかし、と言うても、そう遠い昔ではない。ある町に、「写真が趣味」な娘が住んでおった。


娘は、新しく買ったカメラを手に、毎日のように町を歩き、風景や人の笑顔を写しては、よろこんでおったそうな。


ある日、娘は古いアパートの近くで、ふと目を引く老婆を見つけた。


背中をまるめて、猫を抱いたその姿が、まるで昔話の挿絵のようで、娘は夢中になってシャッターを切った。


「失礼します、お写真を撮らせていただきました」


娘が声をかけると、老婆はゆっくりと顔を上げ、にたりと笑ってこう言った。


「写るかねぇ、そのカメラで」


娘はその言葉に首をかしげつつも、家へ帰り、さっそく撮った写真を見てみたんじゃ。


すると――。


そこには風景も猫も、はっきりと写っていたが、老婆の顔だけが、まるで消しゴムで消したように、ぽっかりと抜け落ちておった。


おかしいと思い、他の写真を確認してみると――なんと、その日のすべての写真に、彼女の「顔」が無い。町を歩く人々の写真にも、遠くを歩く人影にも、みな「顔」だけがぼやけておる。


不思議に思っていると、娘のスマートフォンに、ひとつ通知が届いたそうな。


それは、写真編集アプリからの自動通知。


「自動補正を適用しました:すべての“不要な顔”を削除しました」


娘はぞっとして、写真のフォルダを開いたが――


そこには、誰の顔も、ひとつも、残ってはおらなんだそうな。


それからというもの、娘はカメラを持つのをやめた。今では、写真を撮られるのも、ひどく嫌がるようになったそうな。


なぜかって?


「自分の顔が、写ってるのを、見たことがないから」


――ほうら、ちょいとぞくりとする、そんな話でござった。


おしまい。


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