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☾.˖٭
職員室に転入の挨拶に行くと、一年生の学年主任の先生が出てきてくれた。
「おはよう。ふたりとも待ってたよ。教室に案内するから、少し待っていてもらってもいいかな」
先生に言われて職員室で待っていると、しばらくして、私たちが入るクラスの委員長がふたりやって来た。
「宝生くんは一年一組の仲元くんが、宝生さんのことは一年二組の香坂さんが教室まで案内するよ。わからないことは、なんでもふたりに聞いて貰えばいいから」
学年主任の先生が、職員室に来たふたりの生徒を私たちに紹介してくれる。それを聞いた稀月くんが「え?」と顔を引きつらせる。
「瑠璃とおれ、違うクラスなんですか?」
「ああ、親戚とか双子の兄弟は基本的に同じクラスにはならないんだ。じゃあ、仲元くんと香坂さん、あとはよろしく」
学年主任の先生はそう言うと、私と稀月くんを託して自分の席へと戻っていく。
「一組の仲元です。ふたりとも、よろしく」
一組の委員長の仲元くんが、私たちに笑いかけてくる。メガネをかけた優しそうな雰囲気の男子だ。
その隣で、
「二組の香坂です。よろしくね」
と、二組の委員長の香坂さんが笑いかけてきた。その笑顔が誰かに似ている気がする。
少し考えて、千穂ちゃんに似てるんだって思った。
そういえば、香坂って名字も同じだ。すごい偶然。
「よろしくお願いします」
「じゃあ、みんなで教室に行こうか」
お互いにあいさつが終わると、仲元くんが先頭に立って教室まで案内してくれた。
一年生の教室は、校舎の三階。
「宝生さんはこっちだよ」
香坂さんについて二組の教室に入ろうとすると、くいっと後ろに手を引っ張られた。
振り向くと、稀月くんが私の手をつかんで何か言いたそうな、不服そうな目をしてる。
「稀月くん……?」
「途中でときどき様子を見に来ますね」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
「でも……」
「ここは安全なんだよね? 蓮花さんの香水もふりかけてるし」
そばにいてくれるのは嬉しいけれど、せっかくの機会なんだから、稀月くんにもちゃんと高校生らしく同年代の子と楽しく過ごしてほしい。
だけど稀月くんは、あまり乗り気でない顔をしている。
「俺は、いいんです。あなたの邪魔にならないように見守っています。放課後は必ず迎えにくるので教室で待っていてください」
「……うん」
お嬢様とボディーガードの関係は解消したけど、私はNWIの保護対象。真面目な稀月くんは、今はNWIの任務の一貫として学校に来ているのだろう。
私がそばにいる限り、稀月くんが高校生としての生活を楽しむのは難しいのかな。
複雑な気持ちでうなずくと、稀月くんが私の耳元に顔を近付けてきた。
「……できれば、離れたくないんだけど」
私にだけ聞こえるように囁かれた声は、甘く優しい。
そばで守ってくれていることは今も変わらないけど、椎堂家のボディーガードだったときの稀月くんは、私と離れるときこんなふうじゃなかった。
義務で私のそばにいてくれるようにしか思えなかった。
だけど今の稀月くんは、心から私と離れたくないって言ってくれてるんだ、って。声や表情から感じとれる。
私は変わらず保護対象だけど、少なくとも稀月くんはちゃんと彼の意志で私のそばにいてくれる。
そう思うと、恥ずかしいけど嬉しい。
赤くなってうつむくと、稀月くんが名残惜しそうに私の手を離す。
「あとでね、瑠璃」
ああ、このタイミングで。こんなふうに名前で呼ばれるのはちょっと……。かなりやばいな。
心臓、ドキドキする……。
視線をあげて頷くと、稀月くんが目を細めてふっと笑う。その表情が、さらに私をドキドキさせる。
「あとで、ね」
小さく手を振って、稀月とそれぞれ別々の教室に入ると、香坂さんが横から私の顔を覗き込んできた。
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