天泣

「どんな境遇でも必ず雨は降る、でもやまない雨はないんだよ」


君はいつも寂しそうに私に口ずさむ。

挫けそうな時、辛い時いつもいつも。


ふと廊下へ目をやるとそこには友と話す彼の姿があった。何も無いかのように会話を弾ませ、笑い合う。何の変哲もない日常を過ごす彼を横目に私は吐息を漏らす。



私は知ってる、想像を絶する様な苦痛を貴方は胸の奥に秘めていることを。

苦しい境遇にあるのにどうして笑っていられるのか、その笑顔の裏に耐え難いほどの苦痛が、地獄があるというのにどうして平然を装えるのか。

それらを知っているのに私はなぜ何も出来ないのか。彼を思えば思うほど、知れば知るほど自身の不甲斐なさに溜息がでる。


傍にいるだけじゃ大切な人は守れない、想ってるだけじゃ大切な人を救えない、優しいだけじゃ駄目。そんな事は百も承知の事だ。

分かってはいる。

でも、どうしたらいいか私には分からない。

ずっと答えを出せないまま、私はあなたの隣にいる。



外は雨。

時が経つにつれて次第に雨足が強くなる。

強く降り頻る大粒の雨は隣にいる君でさえ隠してしまいそうなほど。

君の言う「雨が止むこと」それが苦悩からの解放を言うのであれば君はずっと雨の中だ。

例えばあなたを縛る人間が死んでしまうことがない限りずっと。

私には雨を止めることは出来ない。

貴方の根本に潜む何かを取り除くことは出来ない。


ただ…ただ私は貴方の寄りどころにはなれる。

あなたを雨から守る傘にならなれるかもしれない。

小さいし肩は濡らしちゃうだろうけど、あなたを苦しめるものから守ってあげれるかもしれない。多分。


雨風が強く傘をすり抜け顔に雫がかかる。

今自分は雨に濡らされているのか、ぐちゃぐちゃになった感情のせいで泣いてしまっているのかまるで分からない。

君は優しい声で私の顔の雫を拭う。

そんな君を見て私は情けなく涙を流してしまう。

自分はこんなにも弱いのに、貴方はこんなにも強かでいることが出来る。

辛いのも苦しいのも貴方の方なのに。



「辛いなら逃げてきていい。見たくないなら目を覆ってあげる。聞きたくない事は私が耳を塞ぐ、寂しいなら抱きしめてあげる。」


震える声と雨音で上手く伝わっているか分からないでも、それでも。


だからどこにも行かないで。って

私はあなたと一緒がいい。って


そう叫んだ。



空を仰ぐとそこには雲ひとつない晴天が拡がっていた。清々しいほどの青。

なのにどうして雨はやまないのだろう

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