陰雨
「どんな境遇でも必ず雨は降る、でもやまない雨はない」
僕はこの言葉がきらいだった。
特に深い理由なんてない、僕の嫌いな人間の言葉だから。
嫌いな理由も、何か被害にあったからだとか
でもなくただ1つ、僕が好きな人、その人の好きな人だからだ。
初めて会ったのは学校の食堂だったと思う。
きっかけは忘れてしまいそうなほど些細な出来事だった。
たまたま、ただの偶然だと思う。
向かいの席で食事をすることになったのも、
同じ講義だったのも、話すようになったのも、帰りの電車で同じになったのも、偶然。
その偶然の中で僕は君を目で追うようになった。
それからというもの、やる事すべてに君がいないと物足りなくさえ感じるようになっていた。
君がいれば、君さえいてくれれば、僕は幸せだった。
好きになるのは必然だった。
桜も散ってジメジメとした梅雨の時期がやってきたそんなある日、帰り道に偶然見かけた君は、僕の知らない人と僕が知らない幸せそうな笑顔でそこに居た。
誰だよ。
思わず口から零れてしまったその悪意は、
「君も今帰り?」
無邪気に笑い返してくれる君にはまるで届いてはいなかった。
それはあまりにも耐え難いもので、僕は目を逸らす事しか出来なかった。
それからというもの、声聞くことも顔を合わせる事さえも出来なくなっていた。
僕は逃げ出した。
可能性を考えなかった訳じゃない、
それでも到底受け入れられるものじゃなかった。
雨足が強まる中、僕はまた逃げ出した。
見たくない現実から。
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