第15話

赤髪にして教室に来たとき、

「どう?」って言われたの、すごくうれしかった。


ほんとは、「似合ってる」って言いたかった。

本気でそう思ったし、ずっと前から赤くしたいって話してたの、覚えてたから。

でも、口がうまく動かなかった。


「なんかやば」って笑ってごまかして、

×××は「だろ?」って返して、

それだけでまた、わたしは何も言えなくなった。


伝えたかったことは、山ほどあるのに。

ぜんぶ心の中で渋滞して、ひとつも外に出せなかった。


わたし、ほんとうは、

×××があのとき戻ってきてくれるんじゃないかって思ってた。


でも、そんなことあるわけなかった。

チュッパチャップスのことなんて、

もう忘れててもいいはずだった。


でも、たまに思い出す。

nちゃんが舐めて、×××がふざけて舐めて、またnちゃんが舐めて、

そして最後に、わたしが口に入れたあの飴。


なにが混ざって、どこからどこまでが誰のものだったのか、もうわからなかった。

でも、それを舐めながら「もうどうでもいいや」と思った自分のことは、

今でもしっかり覚えてる。


あの味は甘かった。

でも、気持ち悪かった。

口の中にずっとへばりついて、飲み込んでも消えなかった。


今でも、たまにその味を思い出す。

そのたびに、×××の顔が浮かんで、

ティアラ、ギター、LINEの通知、笑い声、

そういう細かいものたちが、一気に脳に流れ込んでくる。


それが、嫌で。

それでも、嫌じゃなかった。

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