第11話

最初に○○が気になったのは、ノートに書かれた歌詞だった。

インスタのノート。なんかの曲の一節。


「今度会ったら****しよう」

たしかそんな感じで、俺はそれ見て、普通に笑った。


なんか変なやつだな、って思った。

明るいふりしてるけど、中身はちょっと違うやつ。

ギャップってやつかもしれない。


授業中、勝手にその歌詞を読み上げたときの顔、今でもなんとなく覚えてる。

あいつ、ちゃんと笑ってたけど、目は笑ってなかった。


それが面白かった。

からかってるつもりはなかった。

ただ、どういう反応するか見たかった。


○○のことをもっと知りたい、ってそのとき初めて思った。


○○と話すのは、楽しかった。

笑いのテンポが合うし、返しも上手いし、なにより話してて飽きなかった。


でも、たまに変な空気になることがあった。

会話の中で、急に沈黙が落ちて、

そのときだけ○○の目が遠くを見てるみたいになる。


あの目を見ると、こっちの心もそわそわした。

何を考えてるのか、わかるようで、全然わかんなかった。


文化祭の準備のとき、俺はサボってばっかで、

nと話してる時間の方が多かった。


そのとき、○○の視線がたまにこっちに向いてるのを感じた。

べつに嫉妬してたとかじゃないと思う。

でも、そのときの顔、今でも忘れられない。


nと話してる時よりも、○○と話してる時の方が、

なんか、俺のことを見てくれてる感じがあった。

それが、居心地よかったんだと思う。


後夜祭の夜、LINEで「写真送って」って言ったのは、

たぶん、もうちょっとだけ話したかったからだった。

でも、○○から返ってきた写真を見て、

その中の○○の顔を見て、急に怖くなった。

俺、なんか踏み込んじゃいけないとこまでいってんのかもしれないって。

修学旅行でたまたま会ったとき、普通に声をかけられたのは、

本当にほっとした。

でも、そのあとLINEのアイコンの件を聞いて、心臓が変な風に跳ねた。


嬉しかった、っていうより、怖かった。

期待されるのが、怖かった。


○○にとって、俺はどういう存在なんだろうって、

考えるのが面倒になった。

だから、話しかけるのをやめた。

それだけ。


けど、それでも、もう一回だけ話しかけたくて、赤髪にして教室に行った。


何も言わずに「やば」って笑ってくれて、

それだけでまた、ちょっとだけ楽になった。

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