第7話

文化祭二日目。

午前中は友達といろんな教室をまわった。

お化け屋敷で叫んで、写真撮って、何にも考えないふりしてた。


午後、自分のクラスに戻って×××がギター弾いているのを見ていた


友達に呼び出されて外に出て戻ってくると、nちゃんがいた。

nちゃんがチュッパチャップスを舐めながら×××と話してて、

「ちょっと持ってて」って、その飴を×××に預けていった。


×××は、それを見てにやにやしながら、ふざけてぺろっと舐めた。

本気じゃなかったと思う。

でも私は、すごく嫌だった。


しばらくしてnちゃんが戻ってきて、×××からチュッパチャップスを受け取って、

そのまま、何事もなかったようにまた舐めてた。


「さっき、こいつそれ舐めてたよ」


わたしはそう言った。言ってしまった。

nちゃんは「うえー、きも」って笑ったけど、気にしてる様子はなかった。

ほんとに、なんでもないみたいな顔だった。


その瞬間、自分がすごくばかみたいに思えた。


「チュッパチャップス、もうないの?」って言ったら、

×××が「もう残ってないよ」って軽く答えた。

どうでもよさそうな顔だった。


わたしは少し黙って、それから小さく言った。


「お腹すいた」


それを聞いたnちゃんは、少しだけ間を置いて、

あの飴を、わたしに差し出した。


「いる?」


わたしは、何も考えずに受け取って、口に入れた。


甘さが、変に混ざってて、

舌にひっかかる感じがして、

涙が出るくらい気持ち悪かった。


でも、なぜか捨てられなかった。


nちゃんが舐めて、×××が舐めて、またnちゃんが舐めて。

それを私が舐めてる。

どう考えても気持ち悪いはずなのに、

「どうでもいいや」って思ってた。


あんなの、もらいたくなかったのに。

なのに、もらってしまった。

ぜんぶぐちゃぐちゃだった。


後夜祭の音楽が、廊下まで漏れていた。

光と音が教室を埋め尽くして、私はずっと浮いた気分のまま、

写真を撮って、笑って、叫んで、盛り上がったふりをしていた。


わたしの目は、ずっと×××を探してた。

遠くにいても、近くにいても、

見つけるたびに、心が冷たくなって、また少しだけ温かくなった。


×××は、いつも誰かといた。

笑って、冗談を言って、友達の肩を軽く叩いて。

そのどれにも、私の名前はなかった。


後夜祭の終わり際、×××からLINEが来た。


「写真送って」

「今日のやつで、盛れてるやつ」


“盛れてる”って何?

×××は、私の表情のどこを見て「いい」って思うんだろう。

わたしがどんな顔して、その写真を撮っていたのか、知らないくせに。


スマホの画面を見ながら、

目の奥がじわっと痛くなった。

それでも、わたしはちゃんと写真を選んで送った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る