第6話
文化祭一日目の朝、×××はいつもより早く教室にきた。
予定よりずっと早く来て、私が持ってきたアコギを抱えて座ってた。
「早すぎじゃん」って言いながら、
×××の前に行ったら、スマホを取られて何枚も写真を撮った。ティアラも猫耳も使って、ふざけて、笑って。
×××が撮ってくれた私の写真も、ちゃんと保存してある。
全部がバカみたいで、全部が楽しかった。
×××が、私のギターで私たちの好きな曲を弾いてくれた。
ちゃんと弾けてて、びっくりするくらい上手だった。
私が好きなその曲が、×××の手で鳴らされてるのを聴いてたら、胸があったかくなった。
ちょっと、泣きそうにもなった。
「元カノ、もう来てるらしい」
×××が急にそう言った。
「出席のやつ、いっしょにやってきて」って言われて、なんとなくついていった。
「お迎えのついで」だって。
結局、×××はすぐいなくなった。
わたしのことなんか忘れたみたいに、姿が消えた。
午前中は友達と文化祭をまわってた。
どの教室もにぎやかで、なんか自分たちのクラス以外がキラキラして見えた。
ひまになって、自分の教室に戻った。
椅子に座って、友達とぼーっと喋ってた。
ふと横を見たら、×××が元カノさんと並んで座ってた。
一気に気分が悪くなった。
ふたりは手を繋いで、ずっとお互いの顔を見てた。
笑ってたし、話してた。
声のトーンとか、目線の動きとか、
すごく近くて、そこだけ別の空間みたいだった。
私は何度か笑ってみせた。
からかうみたいに、
「ラブラブじゃん」とか、「戻ったの?」とか、
自分でも声の出し方がわからなくなってた。
それ以上は無理だった。
教室を抜け出して、トイレに駆け込んだ。
鏡の前で、自分の顔を見た。
ちゃんとメイクしたのに、目元が少し崩れてて、
なんでだったっけ?って考えて、また気分が悪くなった。
午後は×××と二人で、休憩所のシフト。
元カノさんはいなかった。
気分はまだ悪かったけど、
×××が私のギターを弾いてるのを、ずっと見てた。
ほんとに上手だった。
いつもふざけてるのに、そのときだけは本気の顔で、
真剣にコードを追ってて、その姿が、すごくよかった。
「指、痛え」
たいががそう言ったから、私は心の中で決めた。
明日、絆創膏持ってこようって。
そのあと家に帰ってから、ずっと寝てた。
なんにもやる気が起きなかった。
夢を見た。
×××と元カノさんが出てきた。
私の目の前で笑いながら、また手を繋いでいた。
目が覚めた瞬間、吐き気がした。
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