第4話

放課後の教室は、光が斜めに差し込んで、机の影を伸ばしていた。

窓際の席から見える空は少しだけ色を変えはじめていて、私はそのグラデーションを、息をひそめて見つめていた。


×××は、後ろで何かを喋っていた。

誰かと。

たぶん、nちゃん。


笑い声が混ざるたびに、心の中の何かがじゅわっと広がる。

焦げたみたいな匂いが胸の奥から立ちのぼって、私はそれをどう処理すればいいのか分からなかった。


nちゃんは、いい子だった。

本当に。

×××に気があるわけじゃないって分かってた。

他に好きな人がいるって、本人から聞いたこともあった。


それなのに、私はどうしてもあの距離感がだめだった。

隣同士でゲームをして、笑って、何気なく肩がぶつかって、そんな風景があまりにも自然で。

見ていられなかった。


私はスマホを開いて、プレイリストをスクロールした。

流していた音楽が途切れて、×××がこっちを見た気配がした。

振り向くのが怖くて、代わりに机に肘をついた。


「○○さ、文化祭どうするの?」


×××の声が飛んできた。

その瞬間、私は自分の中の温度が一段上がるのを感じた。

いつも通りのテンション。ふざけてるようで、ちゃんと聞いてくる。


「なにが?」


「出し物。マジでやる気なくてさ、俺」


「知ってるし。今日もサボってたじゃん」


「いや、nにゲームやろって誘われたんだって笑」


「…そっか」


その名前が出た瞬間、喉の奥に何かが引っかかった。

でも、それを言葉にするほどの正当性は持っていない気がして、黙った。


「でもさー、○○がいるからいいけど」


そう言って、×××は笑った。

まるで当たり前みたいに。

そんなことを言えるやつが、なんでこんなに簡単に私の気持ちをかき乱せるのか、分からなかった。


私は返事をしなかった。

ただ、イヤホンのコードを指に巻きつけながら、「なんか今日、空気湿ってない?」って言った。


×××は、「え、なに急に」と言って笑った。

私はそれで、ちょっとだけ息がしやすくなった。

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