朝鮮篇 最終話 明日へ...

目を開けると、見慣れた洞窟が広がっていた


「ここは…」

「ここは研究所よ。鍾乳洞を改造したの」と善子が説明する。

「どうやら私たち、ほぼ同時に目覚めたみたいね…」

「首謀者は見つかり…もう処分された」

「これで、私の戦いはひとまず終わったってわけだ」


「でも…」

スマホのニュース映る瓦礫の山や傷ついた人々の姿に、胸が痛む。

「…決めた」

立ち上がろうとして…激痛でまた倒れそうになる。

「気をつけて…もう」

「全身の筋肉が損傷してるし、骨折もしてる。治すのは難しくないけど…いきなり完治は不自然だから」

「だから病院を手配したの。そこで療養して」


「…奈緒たちは大丈夫?」

「…大丈夫よ。全然平気」


「善子!」

「あ、太郎も、それと…」

「私は金城哲子、こちらは荒木恵美です」

「よろしく。前に会ったことあるよね?」

「ええ、二人とも前に家に来てくれたことあるわね。ごめん、顔盲なんで」

「それより…」

「大丈夫?」

「いや、みんな無事なの!?」


本能的に周りを見回し、さっき答えをくれたあの古い友人を探す。

「ああ、もう。また魂交換と全身筋肉混乱で頭おかしくなったかも」

「大丈夫…骨折が少しあるだけ」

「なぜかというと…あの…」

彼の頭はまだぼんやりしている。黒い組織の混戦に巻き込まれたからだ。

「あ、そうそう」

「…嘘はいいわ。それに、そんな偶然で二人揃って東京に遊びに来てる時にこんなことに?」

「えっと…」

「実は…私もだいたい察してたの。どうしてあなたが三日に一度は東京に現れるのに家賃を払ってないのか、なぜこの国の両端にいるはずなのにいつも一緒にいるのか」

「それに…ニュースのぼやけた顔がどうしてあなたたちにそっくりなのか」

「何年もバカにしてたと思わないでよね?」

母は深いため息と共にそう言った。


「出てきなさい!その…ナメクジか何か」

父も叫んだ。

この時、私は震撼した。

「…交換時の動きが不自然だったか?それとも最初から知ってて、今になって言い出したのか?」

「あはは、バレちゃったか。まあいい、最初から話すべきだと思ってたから」

エンプが機械の陰から現れ、粘液を地面に残しながら。

「こんにちは。私はエンプサー。地下文明からの…使者です。そしてあなたの娘のアシスタントでもあります」

「そう…やっぱり」

「今はもう命の危険はありません。ただ経過観察が必要です」

「大丈夫…」

二人は善子をぎゅっと抱きしめ、ゆっくりと言った。

「無事でよかった」


窓から差し込む陽光が花を照らす。これこそが私の見たかった結末だ。

だが、そんな温かい気持ちに浸っていると…

「あなたもだよ、太郎」

「おかえり」

「…ただいま」

「そう。私もか…」


その時、慌ただしく二組の人々が駆け込んできた。

「哲子!」

「恵美!」

言うまでもなく、彼らの家族だ。

「無事でよかった」

「…大丈夫だよ、父さん、母さん」

この時、言葉はいらない。

普段は金庫のように堅い顔の金城でさえ、今は普通の女の子に戻っている。

「はあ…心配しすぎて死にそうだったわ!」

「どうしていつも私たちに内緒でよそに行くの!それに新幹線で駆けつけなきゃいけないし!」

「…ごめんね」

そんな言葉でも、誰もが笑顔にあふれている。

どうやら、天下の親心はどれも同じらしい。


「ねえ?太郎、それ何?」

「小円?これのこと?えっと…」

廊下を歩いていると、ポケットから変身器が落ちてしまった。

「これは…えっと…」

「おもちゃ。特撮のやつ」

「特撮?…聞いたことないわ」

「ああ、世の中には知られてない地方特撮がいっぱいあるんだ。これは…えっと、福島市の地方特撮で、巨大タイタン光戦士ってやつ」

適当に考えた名前。まあいいか。

「そうなの…しまいなさい」

「今でも幼稚だと思う人は多いから」

彼は私の背中をポンと叩き、じっと見つめた。

その目は優しさに満ちていた。

どうやら彼も仲間らしい。少なくとも事情はわかっているようだ。

「…今度一緒に見よう。その前に録画見ないとけど」


(放課後の路地裏、善子と並んで歩いている)


「二ヶ月以上経ったね。平穏な日常が続いてる」

「ニュースでは北朝鮮政権の清算が進行中で、金一族はてんてこまいらしいけど、まだ結果は出てない。大打撃を受けたんだろう」

「国連は相変わらず役立たずだけど…まあいいや」

「政治なんて、私にはよくわからない」


今は暫く早乙女家に住んでいる。長期間行方不明だったから、元の家には新しい入居者がいるんだ。

でも、早乙女家は歓迎してくれた。養子が増えたようなものだね。十代になってから養子になるのは珍しいけど。

何より、善子も気にしていない様子。突然家族が増えても平気なんだ…それでいい。

私も店の手伝いを始めた。微力ながら役に立ちたいから。

この運命を変えるきっかけをくれた博士には感謝しないと。


突然、遠くで人々の悲鳴と、地面が砕ける音がした。

「これが普通の出現頻度だよね…」

「そうかな?」


善子が空に向かって手を伸ばし、慣れた棒を掴む。

「行くよ」

私もポケットから変身器を取り出す。

「でかいからポケットに入れるの大変なんだよね…落とした時の言い訳も考えた。バンダイのシール貼っておいた」

それぞれボタンを押すと、光と闇のエネルギーが全身を包み、空中に浮かび上がる。


「行こう!」

「…うん!」

太陽は、相変わらず輝いている。


---

「小円!特撮見ようよ!」

「最新の戦隊モノダウンロードしたから、ご飯食べながら見よう」

「待って。奈緒と善子も呼ぶから」

「二人も見るの?」

「ああ、子供の時から見てるんだ」

「知らなかった…善子の部屋に全然痕跡ないよ。模型一個もない」

「よく隠してたよね…」

「屋上で集合な」


---

「さあさあ」

オープニングが流れ始めると、私たちは一気に没入した。集中して目を見開き、制作チームの心意気を無駄にしないよう細部まで見逃すまいとする。

「見どころの戦闘シーンでは拳を握りしめ、感動的な場面では涙し、悪逆非道な悪役には憤慨する」

「これが、生活だよね」


青空と白雲を見上げ、通りを行き交う人々を見る。以前はこれが当たり前だと思っていた。

でも今は…

私たちはその方向へ飛び立ち、疾風が頬を撫でる。

「これは天から降ってきたものじゃない」

「そして私は、自分の力を捧げなければ」


---

(光と闇の根源の対話)

「光の神よ」

「もう百億年近く戦ってきたな。そろそろ休戦だ」

「同感だ。ところで、なぜ戦ってたんだっけ?」

「忘れた」

「なら戦うのをやめよう。元々お互いを滅ぼすことなどできない」

「宇宙に生命がある限り、光と闇はなくならない」

「君も飽きただろう」

「そうだな。ただし…地球のあの科学者は」

「ああ。少し闇の力を使ったな。だが、それがどうした」

「光の力が強ければ強いほど、闇の力も深くなる」

「あの文明が滅びなかっただけでも奇跡だ」

「…あのさ」

「どうした?」

「現状維持でいいじゃないか」

「こんな文明、なかなかいないぞ」

「血塗られた独裁者もいれば、人命を救う医者もいる。富を築く商人もいれば、厳しい修行をする苦行者も。笑って国を傾ける美女もいれば、近寄りがたい暴力団も」

「だが実際、大した違いはない。同じ飯を食い、同じように眠り、同じように生老病死を経験する」

「よくあることじゃないか…」

「それより重要なのは、ここでは善と悪が完璧に近い均衡を保っていることだ」

「一方が他方を完全に押し倒そうとする時、必ず逆転が起きる」

「私たちが手を出さなかったら、どうなるか興味ないか?」

「…そうだな。戦争も飽きた」

「だろ?さあ、一緒に見よう」


光と闇の根源は腰を下ろし、一緒に興味深そうに見始めた。まるで世界が本来あるべき姿のように。


---

世界の本質は、宇宙の法則でも神の恩恵でもゼウスの神託でもない。道は屎溺にあり、毎回の食事や排泄、睡眠の中にある

生きよう。これが本質なんだ


夕日が沈み、四人の影が屋上に長く伸びる

「ねえ、明日も一緒に特撮見よう?」

「もちろん!でもその前に宿題終わらせないと」

「あ…忘れてた!」

笑い声が、黄昏の空に消えていく。

これこそが、戦う理由なんだ。

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魔法少女ソウル @rainbowandsun

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