番外編 君は誰かを愛しているか

「奈緒、どうしたの?」


食堂で席に着いた途端、奈緒が苦しそうに下腹部を押さえているのに気づいた。


「……どうかした?」

待てよ……女の子がこんな反応って、まさか……


「ああ。そういうこと」私が言おうとしたことを先回りするように、彼女が答えた。


「実は……私も数日前までそうだったんだ」頭を掻きながら笑って、腰を下ろす。


「え?あの時平然としてたじゃん」

「このくらいの痛み、我慢すればなんとかなるよ」


「……すごい意志力だ」

「生理用品は?」

「そっちは彼女のお母さんに用意してもらってた。でもそのうち自分でできるようになったよ。目を閉じて、あの……毛を無視すれば」

「これが私の運動神経と空間把握能力さ」


「……すごいな。他の男子が苦しんでるのを見ると、君みたいに耐えられる奴いないよ」

「どう?温シップとか、黒糖湯とかいる?」

「学校にはないだろうから……明日持ってくるよ」


「大丈夫。ありがとう。初めてじゃないし」

「でも……人のこと気にかけるようになったね?」

「どうして?君とは以前から知り合いじゃないだろうに」


「私はずっとクラスのみんなを観察してきた。細やかには見えてなかったかもしれないけど」

「でも……あなたがこうなってから、人のことを気遣うようになった気がする」


「そ……そうかな?」

「そんなことあったっけ……自信ないや」


「まあいいじゃない。そういうの、素敵だよ」彼女は悟ったように言った。

「これからも、そのままでいてね」



「女の子の話してるの?君たち」

円と飛鳥が自然に席に着き、会話に加わってきた。


「奈緒、この二人は……」

「ああ、円と飛鳥。幼なじみなんだ」


「そうなんだ……」


「ねえ、あなた元々男の子だったよね?」

「そうだけど……どうして?」


(ところでこの円って子……超イケメンだな)

(どことなくギリシャ系っぽい感じ。この身体の元の持ち主は誰なんだろう)

もちろん口には出さず、ただ黙って見つめる。


「でね、飛鳥が話し始めた」

「あなた……イケメンの知り合いとかいる?」


「……は?」

「つまり……紹介してくれない?」


二人が瞬きしながら近づいてくるので、かえって困惑する。


「……君たち自身が十分イケメンじゃないか」

「まあ円はともかく、私はダメでしょ」

「いやいや、十分いけるって。俺は市井の人間だから、君たちが求めるような良家の息子さんなんて知らねえよ」


「ちぇっ……」


「ところで……彼の名前何だっけ」

「太郎。一ノ瀬太郎だよ」奈緒は水を飲みながら、わざとらしく呆れた顔をした。もちろんみんな、彼女の演技だとわかっている。


「太郎。好きな人いる?」


驚いて、口にしていたご飯を吹き出してしまった。


「そそそんなわけないだろ!女の子なんてほとんど知らないんだぞ!」

「今ここにいるじゃん」


突然接近してくる二人。


「元の姿知らないんだぞ!?男二人が近づいてきても何も感じないって!」


慌てて言葉を詰まらせ、壁際まで追い詰められる。


「あのさ、からかうのやめなよ」

「戻ってからやればいいじゃん」


奈緒が二人を遮り、私を立ち上がらせた。


「……ありがとう」


「この企画はお互いを理解し合って、友達になるためのものだろ。善子まで行方不明になっちゃってるし……はあ」

「でも、戻ってきたらまた考えよう」


「奈緒って……意外と落ち着いてるな」

「そうだね……」

「大地みたいだ」

「そう。成績も超優秀で、まさに天才だよ」


三人で高山奈緒を見上げ、心の中で感服せずにはいられなかった。

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