番外編 君は誰かを愛しているか
「奈緒、どうしたの?」
食堂で席に着いた途端、奈緒が苦しそうに下腹部を押さえているのに気づいた。
「……どうかした?」
待てよ……女の子がこんな反応って、まさか……
「ああ。そういうこと」私が言おうとしたことを先回りするように、彼女が答えた。
「実は……私も数日前までそうだったんだ」頭を掻きながら笑って、腰を下ろす。
「え?あの時平然としてたじゃん」
「このくらいの痛み、我慢すればなんとかなるよ」
「……すごい意志力だ」
「生理用品は?」
「そっちは彼女のお母さんに用意してもらってた。でもそのうち自分でできるようになったよ。目を閉じて、あの……毛を無視すれば」
「これが私の運動神経と空間把握能力さ」
「……すごいな。他の男子が苦しんでるのを見ると、君みたいに耐えられる奴いないよ」
「どう?温シップとか、黒糖湯とかいる?」
「学校にはないだろうから……明日持ってくるよ」
「大丈夫。ありがとう。初めてじゃないし」
「でも……人のこと気にかけるようになったね?」
「どうして?君とは以前から知り合いじゃないだろうに」
「私はずっとクラスのみんなを観察してきた。細やかには見えてなかったかもしれないけど」
「でも……あなたがこうなってから、人のことを気遣うようになった気がする」
「そ……そうかな?」
「そんなことあったっけ……自信ないや」
「まあいいじゃない。そういうの、素敵だよ」彼女は悟ったように言った。
「これからも、そのままでいてね」
◇
「女の子の話してるの?君たち」
円と飛鳥が自然に席に着き、会話に加わってきた。
「奈緒、この二人は……」
「ああ、円と飛鳥。幼なじみなんだ」
「そうなんだ……」
「ねえ、あなた元々男の子だったよね?」
「そうだけど……どうして?」
(ところでこの円って子……超イケメンだな)
(どことなくギリシャ系っぽい感じ。この身体の元の持ち主は誰なんだろう)
もちろん口には出さず、ただ黙って見つめる。
「でね、飛鳥が話し始めた」
「あなた……イケメンの知り合いとかいる?」
「……は?」
「つまり……紹介してくれない?」
二人が瞬きしながら近づいてくるので、かえって困惑する。
「……君たち自身が十分イケメンじゃないか」
「まあ円はともかく、私はダメでしょ」
「いやいや、十分いけるって。俺は市井の人間だから、君たちが求めるような良家の息子さんなんて知らねえよ」
「ちぇっ……」
「ところで……彼の名前何だっけ」
「太郎。一ノ瀬太郎だよ」奈緒は水を飲みながら、わざとらしく呆れた顔をした。もちろんみんな、彼女の演技だとわかっている。
「太郎。好きな人いる?」
驚いて、口にしていたご飯を吹き出してしまった。
「そそそんなわけないだろ!女の子なんてほとんど知らないんだぞ!」
「今ここにいるじゃん」
突然接近してくる二人。
「元の姿知らないんだぞ!?男二人が近づいてきても何も感じないって!」
慌てて言葉を詰まらせ、壁際まで追い詰められる。
「あのさ、からかうのやめなよ」
「戻ってからやればいいじゃん」
奈緒が二人を遮り、私を立ち上がらせた。
「……ありがとう」
「この企画はお互いを理解し合って、友達になるためのものだろ。善子まで行方不明になっちゃってるし……はあ」
「でも、戻ってきたらまた考えよう」
「奈緒って……意外と落ち着いてるな」
「そうだね……」
「大地みたいだ」
「そう。成績も超優秀で、まさに天才だよ」
三人で高山奈緒を見上げ、心の中で感服せずにはいられなかった。
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