第2話 マックスハート
「なにこれ?新しいモンスター?」
「そうだよ~。東京全域とその辺りが私の担当なの。暇さえあればどこでもパトロールしちゃうんだけど...何してるか自分でもよくわかんないときあるんだよね」
「え、バレても平気なの?」
「何を怖がるの?ただの空飛ぶ光の点でしょ~」
「毎日ヘトヘトなのも納得...」
「あ、そういえばカメさんは?」
「あらあら、ほんとに疲れてるみたい。たまには休みなさいよ」
「これで何人死ぬかわかってるの?そんな無責任でいいの?」
「はいはいはい...で、変なやつ見なかった?どこ?」
「秋葉原でGPSをオンにしたら、でっかいナメクジみたいなのが...マジでキモい...以上」
「うわ...あの人たちマジでアテにならないな」
(...もしまだ能力があったら)
彼は自分の新しい、がっしりした手を見つめた。強そうに見えるのに、誰も守れない。
(モンスターを殴ったって、たぶん傷ひとつつけられないだろう...)
「...考えても仕方ないか」
ここは地球。本物の地球。魔法少女もいるけど、科学が支配する星だ。
アイアンマンの技術でも手に入れない限り...
「でも何か方法が...いや、やめとこ」
その時、路地からスーツ姿の男が。顔にはシルクのマスク...仮面舞踏会かよ、って感じ。
「それが本当に可能だとしたら?」
「...どういう意味?」
「力が欲しいなら、ついて来い」
半信半疑で鉄パイプを拾い、男について路地へ...
「ナメクジモンスターだった...マジでキモ」
「前のもっとひどいのもいたぞ。さっさと変身しろ」
「質問があるんですけどー」
「戦闘中」
「えっと...変身して飛んでくればよかったのでは?」
「それはいい考え...だが新人の君にはエネルギーの無駄だ」
「エネルギー?制限あるの?」
「長距離走ったらお腹すくだろ?あれと同じ。魔法だって補給が必要」
「生物学はわかるけど、魔法エネルギーも...?」
「あーもう!こっちは殺されかけてるんですけど!」
ナメクジが酸をブッぱー!ビル一棟が瞬時に黒こげに...
「...最悪」
「鉄筋コンクリートも溶かすのかよ...」
「体力残ってる?あと体の粘液も多分酸性」
「そうだ!光の技を使おう!」
「でもちょっと試したいことが...」
「待って!...もう飛んでった」
「はあ...善子の言う通り、この人ほんとアテにならない...」
「でも...なぜか大丈夫な気がするんだよな」
彼は変身アイテムをライトセーバーに。集中すると剣が巨大化!
「これでも足りないけど...長期戦はキツいからこのへんで」
(でも床の高さまで伸びるなんて...善子ってほんと魔法っぽいな)
「ゴホン。ようやく追いついたわ」
「魔法は魂と肉体の共同作業よ。認めたくないだろうけど、あなたの魔力は結構あるの」
「そう?ま、いいや」
数十メートルの剣でナメクジをブッた斬り!...と思いきや、粘液で再生開始。
「クモとぜんぜん違う...」
何度斬っても再生する。
「太郎!必殺技で早く!魔力が...!」
「殺すしかない?使い方教えて」
「もう一度トリガーを引くの!」
「おっけー」
引き金を引くと、全身から光の球が!
「ソル・ルミナ!」
光のレーザーでナメクジは破裂。
「...でも地面の酸で建物が溶けた。避難してたから助かったけど」
エネルギー切れで変身解除。エンプサがキャッチ。
「ねえ、大丈夫?」
「最後の技は全エネルギー消費するって言い忘れた...1日は変身できないわ」
「もっと早く言ってよ!墜死するとこだった!」
「ごめん、全子は『エミーレイ』って小さい光線でエネルギー温存できるから...」
「もういい...でも一つ聞きたい」
破壊を免れた屋上で街を見下ろす。
「パトロールしてたら...」
細い手を見つめる。弱々しく見えるけど、世界を守る力がある。
「おいおい、自分を責めるなよ。今後はせいぜい巡回担当だな。私の方が軽くて速いから」
「どうすれば早く現場に着ける?」
「管轄区域は魔法少女が全力で5分以内で飛べるように設計されてるから安心しろ」
「そっか...」
街を見ながら、決意が固まる。
「あのモンスター...君に似てない?」
「ありえない。僕の方がずっとハンサムだ」
「え?みんな同じに見えるけど?」
「バカ言うな」
「ねえ、地下文明は強いって言ってたのに、なぜ地上を占領しないの?」
「占領してどうする?それに私たちは拡張主義じゃない。...それより、あの呪いは醜すぎた」
「それに地表は寒すぎる」
「寒い?超暑いですけど?」
「あなたたち人間基準でしょ。私たちはマグマ(数千度!)住みなの。摂氏なんて耐えられない」
「はー...で、モンスターの残骸は?」
「回収済み。調査する。...でも心配ないわ。魔法少女の光は最低10万度、私のは50万度だから」
「ウルトラマンかよ!」
「ウルトラマン?...まあいいや」
朝日の中、和やかな会話。これが彼らの戦う理由なのかも。
[後日...]
「善子の行方、知ってる?」
「知らない。むしろ俺も探してた」
1週間経っても手がかりなし。
「エンプサ。魂魔法とかで居場所わからない?」
「試した。でも魔力の痕跡が一切ない...生きてる人間がこんな消え方するなんて初めて」
「まさか...死んでても痕跡は消えないはずだろ?」
「普通は1日で消えるけど、力は1ヶ月は残る...これは何かがおかしい」
「じゃあ彼はどうなったの?!」
「わからない...地下テロ組織の仕業かも」
「テロ組織?ああ、あの過激派?」
「冗談じゃない!本当に存在するんだ!」
「正確には反政府武装勢力...でももう壊滅してるはず。地上に出る力もない」
「...地下に潜った?」
「同僚全員に聞いたけど、何も...」
「どうすれば...」
「わからない。国全体が未経験の事態だわ」
ナメクジの心配顔(多分)を見て、頭をそっと撫でる。ぬるぬるしてるけど、意外と気持ちいい。
「大丈夫だよ」
(この人...悪くないな)
(たとえ元に戻っても、これからも連絡取りたい...)
「あ!ヤバい!どうしたの?」
「モンスター出現!大阪で!」
「大阪?!東京から静岡まで急いで来て!」
「了解!でも全速力なら5分もかからないよ~」
「え?そんなの可能なの?」
「魔法少女の全速力はマッハ5!音速の5倍だよ。ただ高く飛ばないとソニックブームで民家が吹っ飛んじゃうからね」
「ソニックブーム...ストリートファイターで最後に見た単語だ...」
「ソニックブームは音速突破時の衝撃波だよ。あ、今は物理の授業してる場合じゃない!」
「でも...授業抜け出す方法教えて?」
「ギャングのボスがそんなこと聞く?ww」
「ギャングじゃなくて友愛会だよ!しかも今まで一度もサボったことないんだ!」
「マジで...じゃあトイレ行くって言い訳しよう。善子もそうしてたし」
「わかった、先生!」
手を挙げてトイレに行く許可をもらう。
「善子の頻尿について報告されたのかな...いや、今は関係ない。行ってらっしゃい」
「ありがとう!」
「で...トイレの窄から飛び降りるんだよね?」
「おっ、賢いね~」
「光り輝く変化!」
ピカーン!と光って魔法少女の衣装に変身。
「方向音痴だから先導して~」
「任せて!」
高度1万メートルまで上昇し、大阪へ一直線。
「そういえば...この衣装、全然かわいくないんだけど」
スカートを引っ張りながらブツブツ。
「軽くてふわふわ...お腹出てるし、風邪引かないの?」
「慣れるよ~善子も初日そう言ってた」
「誰がデザインしたの?」
「これ...人間が思い描く魔法少女のイメージなんだよね...みんなで協力して決めた感じ」
「...変更可能?」
「理論上は...あ、まずは仕事だよ!」
雲の上を超音速飛行。風も息切れもなし。
「めっちゃ快適!これならずっと飛んでいられる~」
「周りの光輪が保護フィールドになってるから。魔力消費するけどね」
「へー...」
「他に方法ないし」
「あれ?どうやって追いついたの?マッハ5だよ?」
「このバブルの中なら相対速度調整できるの。原理は...動くからいいよね」
「考えすぎない方がいいか...」
「もうすぐ到着~スピード落とすよ」
「これが...カメ?」
「カメでも魚でも好きに呼んで。とにかくあれがターゲット」
「早く終わらせて学校に戻ろ...」
トリガーを二度引き、光輪がさらに輝く。
「ゆっくり...ゆっくり...」
「早く解決した方が良くない?」
「魔力使い切ったらどうするの?慎重に行こうよ」
「...じゃあまず水質検査!」
ライトセーバーで斬りつけるが効果なし。
「前回より硬くなってる...無理無理!」
「ダメージ与えられないね」
街で暴れるモンスターを見て焦る。
「解決策ある?」
エンプーサも困り顔。
「...このモンスター、元の動物と構造似てる?」
「内部構造は不明だけど、多分似てるはず」
「よし!」
「待って!何する気?!」
巨大カメの腹に突進。ひっくり返すと地震が!
「隙間がある...」
光エネルギーを右手に集中、カメを空中にぶん投げる。
「これでどうだ!」
何度もトリガーを引き、エネルギーを拳に集中。
眩い光の中、カメの柔らかい腹に突撃!光が浸透し、モンスター消滅。
「やったじゃん!そんな方法思いつくとは!」
「わかんない...直感かな?」
笑顔で返事。善子の声が明るく聞こえる。
「はい、急いで戻ろ。先生まだ休憩中だよ」
「そういえば...いつもこんなに速いの?」
「急いだ方がいいでしょ?善子も『早いほど良い』って」
「確かに...道理だ...」
「案内よろしく~」
大阪城を見下ろしながら、日常へ戻る。
教室に戻ると...
「何してたの?」
早乙女夫妻がドアをノック。
「何も...ただ宿題してただけ」
「元気そうで何より。最初より良くなったね」
2週間経ち、体にも慣れた。
「ところで善子のニュースは?」
「まだ何も...東京中探したけど」
「そうか...」
「何かあったら何でも言ってね。今は私たちが親代わりだから」
「将来的には...知り合いの...」
「...了解。ありがとう」
「そんな顔するとは思わなかった」
ドアを閉めると、ウンプがランドセルから飛び出した。
「...外人がいるとこうなるの?」
「みんな隠れるよ。前にオープンポリシー試したけど...死ぬって聞いてみんな逃げたんだ」
「魔法少女の歴史って?」
「1000年くらいかな。最初の魔法少女はフランスで生まれて...」
長い説明の後...
「なんで助けてくれるの?」
「特別な理由なんてないよ。みんな地球の住人だし」
「バレない?」
「善子の最長戦闘記録は15分。往復10分ならトイレ30分でもバレないでしょ?」
「太郎...最近どう?」
「何でもないよ」
ベッドで映画を見ながら考える。平和な日々が続く。
「無事でよかった」
「え?」
「『あなたが無事でよかった』って言ったの」
「あ...ありがとう」
何とも言えない温かさ。まだ元に戻るのを待ってる。
「あと2ヶ月半か...」
長いのか短いのか...
善子はある日突然消え、傷だらけで戻ってくることも。でも近くで悪い子がいる噂はなし。
「いったい何と戦ってるんだろう...」
「...無事でいてくれ」
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