第22話この部屋には、ふたりの未来が見える

「わぁ……見て、このソファ。めちゃくちゃ座り心地良さそう」


休日の午後。ショッピングモールのインテリアフロア。

ふたりは手をつないだまま、あちこちの家具に目を輝かせていた。


「確かにいい感じ。でもこのサイズ、うちの部屋に入るかな?」


「んー、無理かも。でも将来引っ越したら……とか?」


駿がふと遥の方を見た。


「将来?」


「だって、結婚したし。いつかマンションとか……買ったり?」


「おっ、それ本気?」


「今はまだ無理だけどね? ほら、“そういう未来もいいな〜”って話!」


遥が照れくさそうに笑うと、駿も自然と笑った。


「……うん。そういう未来、悪くない」


歩きながら、キッチン家電のコーナーへ。


「あ、この炊飯器、いいよね。五合炊きとか、ふたりだとちょっと多い?」


「いや、俺が食べるから問題ない。むしろ足りないくらい」


「言ったな? 覚えておくからね、胃袋捕獲作戦」


「なんだそのネーミング(笑)」


電気ケトル、空気清浄機、ロボット掃除機。

ひとつひとつ見ながら、まるで“ふたりの家”を想像するように笑い合う。


「まだ買わないけど、見るだけでなんか楽しいね」


「うん。いつか揃える日のために、今はいっぱい想像しよ」


手をつないだまま、ふたりは次のコーナーへと歩き出した。


照明の光が反射した床に、ふたりの影が並ぶ。

その距離がぴたりと揃っていることに、遥はふと気づいた。


(この人といると、どこを歩いてても、ちゃんと並んでいられるんだ)


なんでもない休日。

でも、その時間のすべてが、愛おしかった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る