第21話ふたりの“もしも”を話そう

日曜の午後。

窓の外は優しい日差しに包まれて、リビングにはふたり分のコーヒーとクッキーが並んでいた。


「……ねえ、駿に何かあったら、どうしようって、たまに思うの」


遥がぽつりと呟くように言った。

カップを持った手が、すこしだけ震えていた。


「え?」


駿は驚いたように彼女を見た。


「ごめん、暗い話になっちゃって。でもさ……駿って、すごく頑張り屋さんだから、体壊しそうで。私、駿がいなくなったらどうすればいいか、本当にわかんない……」


駿は、少し黙ってから、ふっと微笑んだ。


「遥、ありがとう。そんなふうに思ってくれてるの、すごく嬉しい」


そして、リビングの棚から一冊のファイルを取り出した。


「実はね、そういうのもちゃんと考えてて。これ、保険関係の書類とか、連絡先とか、いざってときに必要なこと、ここにまとめてあるんだ」


遥は目を見開く。


「……そんなの、いつの間に……」


「大げさなことじゃないよ。念のためってやつ。遥が困らないようにって、それだけ」


遥はそのファイルを手に取り、静かにページをめくる。


「……ねえ、私の分もあるの?」


「もちろん。夫婦なんだから、当然でしょ」


「……ありがとう。私もちゃんと、考えなきゃだね」


静かに交わされた、ささやかな“未来の約束”。


それはただの手続きではなく、“ふたりで人生を歩く覚悟”を確認する時間だった。

 

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