第17話左手の指輪がずっと愛おしく幸せの証

朝、目が覚めたとき。

遥はまだ少しぬくもりの残る布団の中で、左手をじっと見つめていた。


──薬指に光る、シルバーのリング。


寝返りの途中で指が枕元の布にそっと触れて、それだけで「あ、私、婚約してるんだ」って実感する。


(不思議だな)


ただの指輪なのに、これひとつあるだけで、

世界の輪郭が少し柔らかく見える気がする。


キッチンからは、駿がコーヒーを淹れる音が聞こえてくる。


「起きた?」


「うん。まだふにゃふにゃだけど……」


「こっちはすでに元気。コーヒー入れるね。遥はミルク多めでしょ?」


「……なんで、そんなに覚えてるの」


「好きな人のことだもん。当たり前でしょ?」


遥は枕に顔を埋めて、静かにジタバタ転がった。


(朝から溶かしにくるの、ほんとやめて……好き……)


テーブルの上に、2人分の朝食が並ぶ。


手を伸ばして、パンをちぎるとき。

コップを持ち上げたとき。


ふと指輪がキラッと光って、そのたびに胸の奥が、じんわり温かくなる。


「……この指輪、すごく好き」


「選んでよかった」


「うん。でも、どんなのでもきっと好きになったと思う。だって、駿がくれたから」


「ちょっと待って、それ俺が言うセリフじゃない?」


「ふふ、今日は私のターン。溺愛されてばっかだったから、返す日」


「え、ずるい……かわいい……ほんと好き……」


遥は笑いながら、テーブル越しに駿の手をそっと取った。


左手の指輪が、やさしく当たってカチッと音を立てる。


その響きが、今日の“幸せ”の証みたいだった。

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