第15話2人の音が、ひとつになる時
「……え、なにこれ」
遥が玄関の扉を開けた瞬間、足元に小さな紙袋。
中には、おそろいのキーホルダーと、一枚の手紙。
──『ちょっとだけ、つきあって』
そのメッセージに導かれるようにして、遥はエレベーターに乗り、
マンションの屋上へ。
開け放たれた空の下、そこに立っていたのは、
どこか緊張した顔をしている駿だった。
「……記念日、なんかしてみたくてさ。
遥、喜んでくれるかなって思って」
「もう……すでに喜んでるよ……」
遥が、駿の胸に飛び込む。
そのまま、ぎゅっと抱きしめられる。
最初はお互いの鼓動がバラバラに響いていた。
でも、しばらくして──
「……あれ、駿くんの心臓の音、私と同じリズムになってる」
遥がそっと呟いた。
「……ほんとだ。すごいな」
「身体って、ちゃんと好きに反応するんだね」
「いや、もう心が溶けてく感じ。重なるって、こういうことかもな」
そのまま、二人は黙ってしばらく抱きしめ合った。
時間も、音も、空気も。
何もかもがぴたりと一致していた。
「……好き」
どっちから言ったのか分からない、同時の声。
でも、それすらも自然だった。
───
記念日デートの帰り道。
ふたりは手をつないで、街灯が照らす夜道を歩いていた。
「今日は……ほんとに幸せだったなあ」
遥がぽつりとつぶやくと、駿がふっと笑った。
「それ、俺のセリフ」
「いやいや、私のほうが幸せ感じてるし」
「いや、絶対こっち」
「……じゃあ、しあわせの押し付け合い、しよっか」
「いいね、それなら負けてもいいかも」
そんなふうに笑い合いながら歩いているうちに、
ふと駿が立ち止まった。
「遥」
その声が、いつもより少しだけ真剣で、遥は足を止めた。
「……なに?」
「ごめん、好きすぎて……誰にも渡したくないって思ってしまった」
「え……?」
「わかってる。早いってことも、ちゃんと。でも……それでも」
駿はポケットから、小さな箱を取り出した。
遥の目が、大きく見開かれる。
「これ、まだ“結婚”って言えるほどじゃないけど……
これからずっと一緒にいられたらって、本気で思ってる。
だから──受け取ってくれないかな」
そう言って、そっと開かれた箱の中には、
細くて、でも優しい光を放つシルバーのリング。
遥は言葉をなくして、その場に立ち尽くした。
でも、次の瞬間には──
「……うん。渡さないで。私も、誰にも渡さないから」
泣き笑いになりながら、遥はうなずいた。
駿はそっと彼女の左手を取って、指にリングを通す。
指先に伝わる温もりと、重さ。
それが、“ふたりの未来”だった。
「……好き」
「好きだよ」
ふたりの声が重なる。
夜の街の中、きらめく光よりも強く、ふたりの想いが交差していた。
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