第7話優しさの代償
帰り道、ふたりは並んで歩いていた。
会話はぽつぽつと、でも沈黙も心地悪くはない。
夜風が肌をなで、街灯が影をのばす。
遥は、ふと立ち止まりたくなった。
「ねえ、駿さんってさ」
「ん?」
「なんでそんなに、優しいの?」
駿は少しだけ足を緩め、横顔を見せた。
風が髪を揺らす。彼の目が、思ったよりも驚いていた。
「優しい……かどうかは、よく分からないよ」
その返事は、照れ隠しでも謙遜でもなかった。
どこか、自分自身にも問いかけるような口調だった。
「ただ……そうありたいとは思ってる。懐が広い人間でいたいっていうか」
遥は横目で駿を見た。
その言葉の裏には、何か重たいものがあるような気がした。
「……それって、何かあったの?」
駿は一瞬だけ黙った。
そして、歩きながらぽつりと語り始めた。
「昔さ、付き合ってた人がいたんだ。別れてからしばらく経って……向こうから、また連絡が来た」
「……うん」
「もう気持ちはなかった。でも、なんとなく断ち切れなくて……返事をしてしまったんだ。
あのとき、ちゃんと“終わったこと”にできなかったのは、俺の甘さだった」
風が吹いた。
どこか遠くで車のクラクションが鳴る。
「結局、その人は期待してしまって、もっと傷つけることになった。
優しくすることが、優しさじゃないこともあるって、そのときに分かったよ」
駿の声は淡々としていたけれど、その奥には確かに悔しさがあった。
遥はうなずきながらも、胸の奥に小さな波が立った。
──今、もしその人からまた連絡が来たら。
駿はどうするのだろう。
“ちゃんと断ち切る”ことが、今ならできるのだろうか。
そんなこと、聞けるはずもなかった。
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