第10話 広がる世界

 さらに数ヶ月の時を経て咲き誇った色とりどりの花々を心穏やかに眺めながら、破壊神がタローに問いかけた。

「私は……もっと植物を育てたい。できれば、花壇を広くしてもらえないだろうか?」


「うーん。まあ、ただ広くするのもいいですけど、試しに花壇を増やしてみましょう。雑草が増えやすくなって管理が難しくなりますが、破壊神さんもそろそろ次のステップ目指したいようですからねー。花壇の草取りを『必要な破壊』に見立てて頑張りましょうねー。ついでに、私の独断で木も植えてみましょう。」

 タローはそう言うと、最初の花壇を起点に円を描くように魔法で新たな花壇を4つ作り、5つの花壇の中心に木を植えた。


 破壊神は少し戸惑ったが、今まで以上に植物を育てられるようになったことに変わりはないと考え、軽く頭を下げた。

「感謝する。これからも命を育めるよう励まなければならんな。」


 時が経つにつれ、花壇だけではなく、その周囲にも少しずつ緑が増えていった。

「最初は草ひとつ無い荒野だったが、木々や花々が増えて……私もこの世界と共に変わっている気がするな。」


 破壊神は、増えた花壇に咲いた花々と、今はまだ頼りなく見える木を眺めながら、胸の内に暖かい満足感が広がっていくのを感じた。かつて無限の力を求め、破壊の限りを尽くしてしまった自分が、今では命を育むために力を注いでいる。その変化は、自らにとっても驚きだった。


「タロー、お前のおかげで、少しずつではあるが、この荒れ果てた世界に生命が戻りつつあることを感じる。私は、かつての自分とはまるで違う存在になりつつあるのかもしれない。」


 タローはそんな破壊神の言葉に満足そうに頷き、「ええ、破壊神さんが変わってきてるのがよーく分かりますよー。最初は重くのしかかる罪悪感ばかり抱えていましたが、今は植物たちと一緒にあなた自身も成長してる感じですねー。」と、微笑みながら答えた。


「だが、私はまだ世界を滅ぼした過去を忘れたわけではない。命を奪ってしまった罪は、こうして命を育むことで果たして贖えるのだろうか?」


 その問いにタローは少し考え込み、静かに語りかけた。

「贖罪は、すぐに結果が見えるものじゃないんですよー。それに、破壊神さんの場合、今は許しを乞う相手さえいませんからねー。そして、過去を完全に取り戻すことはできません。それでも、今できることを続けていくことで、いつか違う形でその罪と向き合い、自分を許せる時が来るかもしれません。少なくとも、今の破壊神さんがどれだけ変わったかは、きっと命たちが証明してくれますよー。」


 破壊神はその言葉に救いを見出し、深く息をついて新たな決意を固めた。色鮮やかな花壇に囲まれながら、自らが何者であるべきかを少しずつ理解し始めていたのかもしれない。


 そして時を重ねる毎に、花壇や木々の周囲には自然と新たな植物が芽吹き、花の蜜を求める虫たちが飛び交うようになっていった。荒涼としていた世界に少しずつ、確かな命の輪が形作られ始めていた。


「タロー、今ではお前がこの地に訪れたことが偶然とは思えない。お前が導いてくれたこの再生の道が、私にとって何よりの救いになっている。」


「ははー、ありがたきお言葉ー。ですが、これは破壊神さんが自分で歩んだ道ですから、自信を持って進んでください。それから……そうですねー。感情移入のし過ぎはいけませんが、今ある命に対する慈しみと尊重、そして失われた命を悼む気持ちも忘れずに前に進んでくださいねー。」


 破壊神は、タローの言葉に静かに頷き、大地にさらなる命をもたらすために一歩ずつ歩み続けた。こうして、彼は新たな世界の創造者とも呼べる存在へと、少しずつ生まれ変わっていったのだった。

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