最終章 もう一度やり直したい

第11話 破壊神の傍らで

 数年の時が流れたある日、破壊神の努力の甲斐あって森と呼べるほどに広がった緑の中を一人散歩していたタローは、おもむろに呟いた。

「さて……破壊神さんも良い感じに立ち直りましたし、そろそろ私も自分の旅に戻りましょうかねー。」


 前方に手をかざし、異空間への入口を広げようとしたタローだったが、大事なことを思い出したように手を下ろし、突然虚空に語りかけた。

「……ところで創造神さん、ずっとそうやって破壊神さんをこっそり見守り続けてるだけで満足ですかー?」


 その言葉に反応したかのように、タローの背後に光が現れ、徐々に神々しさを感じさせる男性の姿に変わっていった。

「……僕の存在、いつから気づいていたんだ?」


「んー。花壇から幼虫さんが現れたあの時ですねー。私がもっともらしい説明で誤魔化しましたけど、あの幼虫さんはあなたが生み出したんでしょう?」


 創造神の方へ振り向き、さらに続けるタロー。

「今では破壊神さんにもほんの少しだけ創造の力が身についてますが、あの時点ではまだ創造はできませんでしたからねー。それに、私も生物の世話はまだ早いと考えて見送ってましたから。ですが、あなたは彼が変わったのか確かめたくて、あの幼虫さんを生み出したんですよね?」


 創造神は軽く俯きながら思いを打ち明けた。

「そうだよ……数百年前の……あの時の彼は、決して命を蔑ろにしたわけじゃない。ただ、彼の力と心の強さが釣り合わずに暴走してしまっただけなんだ。だけど、あの幼虫への接し方を見て、彼が変わったことを確信した。今の彼なら、僕がいなくてもこの世界を守っていけると思う。」


 その言葉に、タローは首を傾げた。

「おやおや?彼が一人でやっていけるとして、あなたはこれからどうするおつもりですか?まさか、このままずっとすっこんでるなんて言いませんよねー?破壊神さんも十分頑張ってきたわけですし、そろそろ姿を見せてあげてもいいんじゃないですかー?創造神としてどうするか考えるのは、その後でも遅くないですよー。」


 その時、創造神の複雑な思いを映すかのように、風に吹かれた木々がざわめく。

「……僕はもう、彼のことを恨んではいない。だけど、彼は僕の命を奪ったと信じ込み、君が現れるまで世界を滅ぼした罪悪感と孤独の中でずっと絶望してた。そんな彼の前に、今更どうやって姿を見せられると言うんだ?傷を癒すためとはいえ、僕はずっと身を隠していたんだ。」


 タローは少し考え込んだ後、軽い調子を崩さずに言い放つ。

「うーん……じゃあ、私が生き返らせたことにでもしときますか?なんなら、ひと芝居打ってお二方の再会を手伝いますよー。」


 創造神は俯いていたが、やがて決心したようにタローの目を見つめた。

「もし、本当にそんなことが君に出来るのなら……君の力を借りよう。僕だって、彼をいつまでも独りにしていたいわけじゃない。」

 創造神はタローの提案に乗り、計画を実行に移すために一旦姿を消した。


「さてと、仕上げに取り掛かりますかねー。」

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