第9話 新たな命
破壊神が植物を育て始めて数ヶ月経った頃、土の中から何かの幼虫が這い出てきた。それを見つけたタローが破壊神に笑顔で言った。
「ほー……なるほど。この虫さんはおそらく、ここを花壇にしたことで土が柔らかくなり、地中深く埋まっていた卵から孵った幼虫さんが出てこれるようになったのかもしれませんねー。とにかく、こんなに小さくても立派な命なので大事にしましょう。この世界では命そのものが貴重ですからねー。」
破壊神は、土の中から這い出してきた小さな幼虫をじっと見つめた。かつて自らの力で命を奪い尽くしたこの荒廃した世界で、新たな命が生まれたことに驚きと少しの感動を覚えた。小さな命が、この荒れた大地で再び息づこうとしている──それは彼にとって何か大きな希望の兆しのように感じられた。
「この幼虫も……この世界の新たな命の一つなのか……」
破壊神は噛みしめるように呟いた。
タローは微笑み、「そうですよー。ほら、破壊神さんが頑張って緑を増やしたおかげで、少しずつ環境も変わってきたってことじゃないですかー?生き物はこんな小さなきっかけから次第に増えていくんですよー。ですから、この方も大事に育ててみましょう。」と軽やかに言った。
破壊神はゆっくりと手を伸ばし、幼虫をそっと拾い上げた。かつては力を振るうことしか知らなかったその手が、今は生き物を傷つけないようにと優しく包み込んでいる。幼虫は小さく蠢きながら、破壊神の手の温もりを感じているかのようだった。
「これが……命か……」
破壊神は呟き、そっと幼虫を花壇の端に戻した。
「私はこの幼虫を育て、この小さな命が成長していくのを見守るべきだろうか?」
「もちろんですよー。これからどんな生物が生まれ育っていくのか、楽しみですねー。ですが、命を育てるのは時間も手間もかかりますから、焦らず見守ってあげてくださいねー。ここからが本当の再生の始まりですよー。」
破壊神は、かつての力への執着や後悔の重みに代わって、この幼虫が成長していく未来を見届けることが自分の新たな使命なのだと感じた。彼はこれからも、この小さな花壇と共に生まれる命を守り、育てていく覚悟を胸に秘めた。
こうして、破壊神の花壇にはまた一つの小さな命が加わり、タローの言う“再生への道”がゆっくりと現実のものとなり始めたのであった。その幼虫が成虫となって羽ばたき、世界に新たな彩りをもたらす日が来るはずと、破壊神は少しずつ希望の兆しを見出すようになっていった。
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