第5話
――賢者草許さねぇ
風の心地よい朝、オレとルゥはのんびりとした足取りで旅を続けていた。道端には野花が咲き、空を飛ぶ不思議な魚がぐるぐると泳ぎ回っている。
「今日もいい天気だなー、ルゥ」
「きゅぅ~(うん、やっぱり旅は最高だね)」
ルゥの尻尾が軽やかに揺れる。そんな穏やかな旅の途中で、突然、足元から声が聞こえた。
「おおい、お前、ちょっと待て!」
カイが振り返ると、目の前に謎の草が浮いていた。見た目はただの草で、声をかけられなっかたらまったく分からなかった。
「……お前、草なのにしゃべるんか?」
「なんだとっ、失礼な奴だな。俺は『賢者草』だぞ!」
オレは草とかに興味がなく「ああ、そう」としか思えなかった。
ルゥは興味津々に謎の草を見上げているが、どうにもこの草は話が長いタイプのようだ。
「今から何をするか分かるか?暇つぶしにこの『賢者の石』を君達に授けようと思ってね、特別な力を持った石だ。きっと、面白い事になるだろう。」
賢者草がちょっと輝きながら、どこからかキラキラした石を取り出した。その石は、まるで魔法の力を秘めているかのように、まぶしい光を放っている。
「へえ、賢者の石か。それで、どう使うんだ?」
「この石は……」
その瞬間、カイの腰にぶら下がった転ばぬ先のツッコミ棒がピカッと光り、突如として叫び始めた。
「危ない!その石を持つと絶対にロクなことがないぞ!!!」
「えっ!?なんで!?賢者の石っていいもんじゃないの?」
「その石、普通の賢者の石となんか違う感じがする。だから早く放せ!!」
「え、ちょ、ま、どうしろって!?」
「えっ、何その棒?」
「は?あ、こいつは『転ばぬ先のツッコミ棒』だよ。どんなボケにもツッコミ入れてくれる、ちょっと鬱陶しいヤツだけど」
「へえ、それにしてもその棒凄いね。まさか、改造した賢者の石だとばれるなんて」
オレは青ざめて、石をオレの手から引き離そうと必死になった。しかしその石は、まるで吸い寄せられるようにオレの手に引き寄せられ、最後にはそのままオレの手のひらに吸い込まれた。
「な、なにが起きた!?!」
「よしっ!俺の予想通り!」
その瞬間、オレの体がひと回り大きくなった。どこかの漫画で見たことがあるような、ムッキムキの魔法戦士みたいな見た目に。
「うわー!なにこれ!強くなった!?いいじゃんこれ!!」
「いや、ユウ、確実に何か違うから!強くなったってより、なんかすごくゴツくなっただけだよ!」
オレは周りを見回す。周りの風景がやたら迫力があって、ちょっとした草の葉っぱすら恐ろしい巨大感を放っていた。
「このままじゃ、スライムにも負ける気がしない!」
「ユウ、何もかもが逆だ!普通の状態に戻れ!!」
その時、賢者草が落ち着きながら、さらに言葉を投げかけてきた。
「ふむ、それは俺が改造した『賢者の石』の一部が発動した結果だ。その変化は一時的だが、試練が終わると戻るだろう...たぶん」
「たぶんってなに!?」
オレはフラフラしながら立ち上がろうとしたが、自分があまりに大きくて周りの草や枝にぶつかりまくり、まるで巨大な神殿の中に迷い込んだような気分になった。
「…すげー、今ならあのスライムでも踏みつけられそうだな」
「気持ち悪いからやめてくれ!」
そして、しばらくすると、元のサイズに戻ったオレと、暴れたせいで壊れた枝を散らかしながら草がポツリと呟いた。
「まあ、君たちは旅の途中だから…いつか役に立つだろう」
「え、使うの!?オレこれ使うの!?」
「取り出し方もわからないから、使うしかないだろう」
オレはうんざりして転ばぬ先のツッコミ棒を再度手に取り、草に向き直った。
「ふざけんな!!」
そう言い放ち、草に向かってぶん投げた。
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