第2話

――腹が減っては旅はできぬ


 「なあルゥ。昨日の干し肉、ちょっと怪しかったよな」


 「きゅぅ(うん…たぶん賞味期限、五年は過ぎてた)」


 異世界に賞味期限という概念があるのかは謎だったが、胃袋は正直だった。昨夜はふたりして腹を抱えて転げ回り、ルゥに至っては口からちょっと火を吹いた。


 「お前、ドラゴンだったんか……?」


 「きゅ!?(違うよ!?)」


 そんなわけで、今日はまともな飯を求めてぶらり旅。目指すは村の外れにあるという、謎の屋台「うまいぞ亭」。名前のクセがすごい。


 道中、サボテンのような植物が突然歩き出したり、話しかけてきたりしたが、オレはもう驚かない。


 「こんにちは~。旅の方ですか~? うちの実、食べてきませんか~?」


 「うん、なんかお前自分の実を人に食わせようとしてくるの怖いな。やめとくわ」


 「えっ……そっかぁ~。残念~……(しゅん)」


 植物がしょんぼりする世界って、どうなの。

 ルゥが「ぴゃう(なんかちょっと同情する)」って顔で見上げてきたけど、たぶん食べたら幻覚見えるやつだからやめとこうな。


 そしてたどり着いた「うまいぞ亭」は、見た目ボロボロの屋台だった。だが香りだけは神。明らかに腹が鳴る香りが漂っている。


 「いらっしゃい! 本日のおすすめは『天空イモのふかし焼き』、そして『謎の肉(たぶん大丈夫)』だよ!」


 「……“たぶん”って何?」


 「気にしたら負けだよ!」


 笑顔でごまかす店主(タコのような顔で脚が6本)。

 やや不安を覚えつつも、イモを頼む。出てきたそれは、ふわっふわで、ほんのり甘くて、口の中でとろけた。


 「うわ……なにこれ……天才の味……」


 「きゅん!(おかわり!)」


 結局、ふたりで三本ずつたいらげて、お腹いっぱい。

 謎の肉は「また今度」ということで保留にした。


 夕暮れの道を、腹をさすりながら戻る帰り道。

 「異世界飯、案外……うまいな」

 「きゅ~(それな~)」


 ――こうして今日も、特に何も起きなかった。

 でも、満足度は満点である。

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