一人と一匹のぶらり旅

アップルパイ

第1話

――風まかせ、草まかせ


 朝の光が差し込む宿屋の一室で、オレは大きなあくびをひとつした。

 「ふわぁ……今日もいい天気だな、ルゥ」


 横で丸くなっていた白いモフモフ――狐と猫とタヌキを混ぜたような不思議な生き物が、ぴこっと耳を動かしてこちらを見た。


 ここは「ノルレア」という異世界。オレが気づいた時にはもうこの世界にいて、前の世界のことはうっすらしか思い出せない。けれど不思議と焦りもなく、「まあ、なんとかなるだろ」と思えたのは、きっとこの世界の空気がやたらのんびりしていたせいだ。


 「今日はどっちに行ってみようか?」


 オレが聞くと、ルゥはすたっと立ち上がり、扉の方へぴょんと跳ねた。

 「了解、そっちね」


 リュックに干し肉とパン、それにルゥのおやつを入れて、二人はぶらりと外に出た。

 小道には花が咲き、空には空飛ぶクラゲがぷかぷか浮かんでいる。隣村ではたまに空色のたまごが産まれるという噂も聞いた。別に調べる義理はないが、ちょっと気になる。


 途中、小さな露店が並ぶ通りで、焼き芋の香りが漂ってきた。

 「うわ、うまそう」

 「きゅん(ほしい)」


 コインを数枚払って、ひとつ買って半分こ。ルゥは舌を出してはふはふしながら食べている。


 魔王もいない。勇者にもなれない。

 でも風は気持ちよく、空はどこまでも広い。


 「……まあ、これはこれで、悪くないよな」


 オレはルゥの頭をぽんぽんと撫でながら、またぶらりと歩き出した。

 次は森の向こうに、新しいパン屋ができたって話を聞いたから、そこまで行ってみようか――



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