ねじれた坑道と、最深部の招待状

迷宮と化した坑道を、レイラたちはひたすら駆けていた。


「……もう、どこが上下かもわかんないよぉ!!」


レイラが半泣きで叫ぶ。


足元には階段があり、天井には扉があり、壁には──なぜか窓があった。


「こんなの……現実の坑道じゃありえない……」


フィオナが苦々しい顔でつぶやく。


「どう見ても異常空間です。ありがとうございました」


カシムが淡々とコメントする。


「……これは絶対、設計ミスだろ」 トールがつぶやき、


「いや、設計とか以前の問題じゃないかと……」


パメラが冷静にツッコミを入れた。


そんな混乱のなか──


バサァッ!!


頭上から、無数の古びた紙束が降ってきた。


「わわっ!? なにこれ!! 書類っ!? 書類の雨っ!?」


レイラがバタバタと紙を払いながら叫ぶ。


「うわぁ、昔の採掘記録とか鉱山税申請書類とか……これ、地味に呪いだわ」


パメラがうんざりした顔をする。


「……事務作業の悪夢……」


リリィが肩をすくめる。


さらに、階段を一段降りると──


グニャリ、と空間がねじれた。


「うわあああああああああ!!???」


重力がぐるりと反転し、全員が宙に浮いた。


「社長ぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


ミネットがレイラにしがみつき、


「おい誰だよ“突撃”って言ったの!!」


「わたしですぅぅぅぅぅぅ!!」


レイラが泣きながら叫ぶ。


バタバタと全員が地面(?)に叩きつけられ、ようやく重力は元に戻った。


「……ぜぇ、ぜぇ……これ、確実に迷宮化ってレベル超えてるよ……」


レイラが地面に突っ伏しながらつぶやいた。


そのとき──


ゴォォォン……。


また鐘の音が鳴った。


今度は、はっきりとした方向感覚と共に。


「この先だ……!」


ガルドが鋭い目を向けた。


「異変の中心地、近いかもしれない……!」


フィオナも静かに頷く。


「じゃあ、進むしかないよね!」


レイラは気合いを入れ直すと、カトラスを握り直した。


「いざ、お宝(かもしれないもの)求めて──進撃ぃぃぃぃ!!」


「ほら、また“お宝”とか言い出してるし!!」


パメラが怒鳴りながら、全員で突撃する。


迷宮の奥へとさらに進んだレイラたちは、空間のねじれが少しずつ収まり、緩やかに下り坂になった道を歩いていた。


「……あれ? ここ、普通の坑道っぽくない?」


レイラが周囲を見渡す。


たしかに、さっきまでの歪みや重力の暴走は収まり、木製の支柱や鉄の枠が整然と並んでいる。


「異常空間の中心を越えた……のかしら?」


フィオナが慎重に杖を構える。


「感覚的には、“安定している”ように感じます」


カシムが壁に手を当てながら、静かに言った。


「だが……空気は相変わらず重いな」


トールが眉をひそめると、奥からふたたび──


ゴォォォン……。


低く響く鐘の音。


だが、それはこれまでよりも近く、はっきりとした“呼びかけ”のように感じられた。


「──来てる。中心地……まもなく、だな」


ガルドが小さくつぶやいた。


そのとき、ミネットがぴたりと足を止める。


「……あれ、地面……光ってない?」


皆が足元を見ると、石畳の隙間からぼんやりと蒼い光がにじみ出ていた。


「魔力、ね……これは強いわよ」


フィオナが手を翳すと、魔導具の結晶が淡く共鳴した。


「この先に……何かがある」


その瞬間、先に続く坑道の壁が、まるで意思を持つかのように、静かに左右へと割れた。


「……あれが、“音”の正体か」


パメラが息を呑む。


鐘楼の足元には、いくつもの折れたツルハシ、割れたランタン、そして……小さな骨の山。


「これ……昔の鉱夫たち……?」


レイラが静かに言ったそのとき。




──ゴォォォォン……。




再び鐘が鳴る。


それと同時に、鐘楼の根元から、ゆらりと“何か”が立ち上がった。


それは、朧げで、透き通るような存在。


けれど、どこか“怒り”のような感情を、強烈に放っていた。


「っ……社長、来るよ!!」


ミネットの叫びと同時に、空間がきしむような音を立てて、気配が爆ぜた。


「構えて! 絶対、ここから無事に出るんだから!!」


レイラが叫び、クルーたちは戦闘態勢に入る。


──異変の核心が、牙を剥き始めていた。

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