第3話「人喰いの影」
何日が経ったのか。地下の世界では時の感覚が壊れている。
狩りにも慣れてきた。鼠、蛇、巨大な虫。生き延びるために、俺は影を使い続けた。
スキル《影縫い》は、敵の影を糸のようなもので縫い止める力。ただし、光がなければ影も生まれない。だから、俺は火打石で火を灯す術を覚えた。松明の炎が揺れるたび、敵の動きも止められる。
ある日、洞窟の先に広がる広間で、俺は「それ」と出会った。
――人型の何か。
だが、明らかに人ではなかった。身の丈は二メートルを超え、腕は膝下まで伸びている。顔は皮を裂かれたようにただれ、目だけがぎらついていた。
「……喰う……」
低く、濁った声が響く。
俺は即座に飛び退き、影に身を潜めた。
やばい。今までの獣とは明らかに違う。動きが早い。反応も鋭い。
松明を投げつける。奴の足元に影が生まれる。
《影縫い》
影を縫い止め、ナイフを抜いて飛びかかる。だが、縫い止めたのは一瞬だけだった。力で引きちぎられた。
ナイフが奴の肩をかすめるも、反撃が早い。巨大な手が俺を地面に叩きつけた。
「ぐっ……!」
肋骨がきしむ音。だが、ここで死ぬわけにはいかない。
奴が再び腕を振り上げた瞬間、俺は影へと身を滑らせた。スキルにはもう一つの効果がある。影に“潜る”こともできる。
背後に回り込んだ瞬間、再び《影縫い》。
今度は両足を縫い止めた。そして喉元めがけてナイフを突き立てる。
血が噴き出した。苦鳴とともに、奴は崩れ落ちた。
息を切らしながら、俺はその死体を見下ろす。
「……こいつも、ダンジョンに囚われた“元人間”か?」
そんな考えがふと頭をよぎる。
生きるために、人の姿を捨てた者。
そうだ。生き残るためなら、俺も何だってする。
この地獄で生き残るために――俺は、人であることすら捨てる覚悟がある。
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