第2話「影に潜む牙」

 足音が響かない。空気が重く、粘つくように体に絡みついてくる。


 あれからどれほど時間が経ったのか、もうわからない。空はなく、太陽も月もないこの世界では、時の流れすら歪んでいる。


 最初の数日は、水も食料も見つからず、死を待つばかりだった。


 だが、俺は生きていた。


 生きるために――影に隠れ、這い、待ち伏せし、襲う。


 《影縫い》というスキルは、対象の影を地面に縫いとめる力。捕えた獣は逃げられず、俺のナイフで静かに息絶える。


 はじめて仕留めたのは、目のない白い鼠だった。


 小さくも凶暴なそれに、右手を噛まれながらも影を縫い止め、ナイフで何度も突き刺した。心臓の鼓動がまだ鼓膜を叩いている。


 それからだ。俺の中で、何かが変わり始めた。


《レベルが2に上昇しました》


 身体が軽くなる。視界が広がる。飢えに鈍った思考が、少しずつ研ぎ澄まされていく。


 俺はここで生きていく。


 獲物を狩り、血を流し、時に傷を負いながら――このダンジョンの奥へと進む。


 そして、いつか外へ出る。


 そのときこそ、すべてを取り戻してやる。

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