第36話
街道を並んで歩く、もとい行軍する舶来衆の戦闘員を、近くの林に隠れ潜んだ僕たちは遠目に監視する。
僕にはピンとこない話なんだけれど、行軍を見るとその軍や部隊の練度がおおよそ分かるらしい。
並んで歩く事くらい、できて当たり前に思うんだけれど、この世界では多くの兵士はそれもできず、バラバラにダラダラと歩いてしまうそうだ。
けれども今、街道を歩く舶来衆の戦闘員達は、奇麗に列を成して歩いていて、……その実態を知らなければ、きっと精鋭に見えるのだろう。
何度も戦ってるとわかってくる事なんだけれど、舶来衆の戦闘員が受けてる魅了の深度には、幾つかの段階があった。
一番浅い魅了段階は、特に他の人間と変わらず自由意志を持っているように見えるもの。
恐らく忠誠心を植え付けるだとか、自分は舶来衆の一員として組織に尽くす事が当然であると認識を変えられてるとか、意識の一部だけに妖怪の力が及んでるんだろうけれど、基本的にはほぼ普通の人間と変わらない。
舶来衆の戦闘員の部隊には、必ずこの魅了段階の浅い人間が含まれており、彼らの指示によって他の戦闘員は動く。
そのせいか、魅了段階の浅い人間は、他に比べて有能である場合が多かった。
また幹部が元居た国から連れて来たのだろう異国人も、この段階の魅了を受けている。
次に中程度の深度の魅了。
基本的に舶来衆の戦闘員は多くがこの段階の魅了を受けており、ある程度の自発的な行動は取るが、表情は乏しく、必要な事以外は一切喋らず、指揮者の命令に服従する。
要するに攻撃を受ければ自ら反撃する程度の意識が残っていて、銃という高度な武器を使えるだけの器用さもあり、また並の人間のように痛みに怯まず、しぶとくて頑丈で、指揮者の命で恐れを知らず勇猛に戦うという、一般兵としては理想的な状態だと思う。
ただ指揮者を欠けば本拠地に向かって力尽きるまで歩き続けるか、自爆を含む方法で自死するだけの哀れな存在でもあった。
最後に高深度の魅了。
これを掛けられた戦闘員はごく僅かだ。
殆どの自発的な行動を取らず、指揮者の命令にただ従う人形のような存在である。
舶来衆の戦闘員が多用する銃を使う器用さも失われており、近接武器を用いて指揮者の護衛を務めている事が殆どだった。
尤も自発的な行動を取れない以上、護衛としてはかなり不完全であり、肉盾と呼ぶ方が近いかもしれない。
但しこの深度の魅了を受けた者は、膂力も頑丈さも人並みを大きく外れ、非常に高い戦闘力を発揮するので注意が必要だ。
今回、僕らが指揮者の暗殺よりも荷を焼き払う事を狙うのは、この高深度の魅了を受けた護衛がいる可能性を警戒するからである。
まぁ、もちろん可能であれば、指揮者の暗殺も試みたいとは思う。
何しろ指揮者を欠けば、中程度の深度の魅了を受けた戦闘員は自爆をするか、本拠地に向かって歩き出す。
前者の場合はともかく、後者の本拠地に向かって歩き出すのは、雇い主である月湖の国から見れば敵前逃亡と変わらない。
それは物資を失って帰還を余儀なくされるよりも、更に大きく舶来衆の信用を傷つけるだろう。
でも僕らはたった四人しかいないから、まずはより確実に、物資を焼き払って連中の戦う力を削ぐ。
指揮者の首を狙うにしろ、そこで満足して引き上げるにしろ、それを果たしてからの話である。
「……三人だな」
僕の横で舶来衆の行軍を監視していた吉次が、ぽつりとそう呟く。
それは、あの五十人の舶来衆の戦闘員の中に、自由意志を持っている指揮者が三人混じってるって意味だろう。
確かに僕が確認した限りでも、表情に人間らしさが残るのは三人だった。
「護衛も一人いたな」
吉次に続いて、六座もそう口にする。
そうかぁ、なら、……少し誘導されたような気はするけれど、僕の判断は指揮者の暗殺を諦める方に傾く。
無理をする必要はない。
意味もない。
今は一つ一つの任務をこなし、成果を積み重ね続ける事が重要だ。
その積み重ねこそが、浮雲の里を助け、舶来衆との戦いを有利に導く筈だから。
「奴らが夜営の準備を始めたら、茜と六座が忍び込んで、火遁で荷を焼き払って。僕は幻術で二人の侵入を手助けするから、吉次は退路の確保を。戦いはナシ。素早く片付けてさっさと帰ろう」
僕がそう言えば、茜がやれやれと言わんばかりに溜息を吐いた。
そりゃあ、仕方ないだろう。
中忍になりたてで、人を率いた経験の薄い僕よりも、吉次や六座の方が判断力に優れてるのは当然だ。
それでも一応は、僕が指揮をしてるって体裁もあるから、二人の意図を組みながらも、自分が判断したようなフリをしなくちゃいけないのは、僕だって恥ずかしいんだから。
気心の知れた面子を前にした時くらい、ちょっと雑なのは許して欲しい。
僕らは少し距離を取って舶来衆の行軍を追いかけて、夜を前に連中が夜営の準備を始めたところで行動に出た。
今回は、日が落ちてしまうしまう前に事を終わらせよう。
完全に夜になってしまうと、また幹部の妖怪が不意に現れるんじゃないかって、警戒しなくちゃならないから。
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