第35話
それから程なく、僕と若様、もとい新しい頭領は十五になる。
この世界でも一人前として、武将の子であれば初陣等にも出る年齢だ。
尤も僕ら忍びは、もっと早くから任務に出させて、実戦を経験させられるのだが。
さて、浮雲の里の方針だが、僕と頭領の折衷案のような形となった。
戦いを続けろって意見の僕と、里の立て直しと掌握の為に、一旦は戦いの規模を縮小したい頭領の意見は真逆だから、間を取るのは難しいように思われたけれど、そこは非常に強引な手段で解決を試みる事となる。
即ち、頭領が掌握をしたい多くの忍びは里に残したり、近場での任務を任せ、既に頭領が信頼を置く一部の忍びが、駆けずり回って舶来衆を叩き続けるという、実に無理矢理で酷くてブラックな方法で。
そうして戦場から戦場を駆けずり回る役割を仰せつかったのが、僕を始めとする側近衆と、それから新たな上忍の方々だ。
正直、ブラック労働には抗議したい気持ちで一杯だけれど、確かにこれは効果的な方法だろう。
まず、新たな上忍達が率先して戦場に向かってる事で、彼らは里の忍び達からの信頼を得られる。
流石に頭領は、次に万一があればそれこそ里が終わるので、自ら戦場には出向けないが、代わりに懐刀である側近衆を戦場に向かわせているから、やはり里の忍びからの信頼は増す。
もちろん僕らも一人で戦場に向かう訳じゃなくて、幾人かの里の忍びを連れて行く。
というよりも、僕も含めて側近衆も上忍も、まだまだ経験不足だから、単独で舶来衆と戦うと無駄死にをするだけだろう。
ただこれまでのように班の一人として任務にあたるという訳じゃなく、僕が中忍として連れて行く人員を選び、それを率いて戦場に向かうという形になる。
すると当然なんだけれど、僕もこれまでの任務で関りを持った、気心が知れてその能力をよく知る相手を率いる方がやり易い。
つまり吉次に茜、それから六座だ。
六座は僕と同じ中忍だが、まだまだ経験の浅い僕や、他の側近衆は、サポート役の中忍を連れて行く事も許されている。
これまでは、六座を上役として、彼や吉次に面倒を見て貰ってたのに、今度は僕が彼らを率いるという立場になってしまったが、二人は指示は聞いてくれるが、これまでとあまり大きく態度を変えずに接してくれたので、僕としては有難い。
尤も、茜は二人のようには割り切れないらしく、暫くはちょっと態度に迷ってた様子だったが、手柄を立てて中忍になりたい、もとい高等忍術に触れる権利を得たい彼女は戦いに出る事自体は歓迎してくれていた。
……さて今回の任務は、舶来衆の稼業の一つである傭兵仕事の妨害だ。
忍びが舶来衆を嫌うのは、忍びが構築した用心棒や傭兵業のシステムに後からやってきた舶来衆が乗っかって、更に忍びを商売敵として排除しようとしたからである。
しかし今回の戦いで舶来衆を調べていくと、どうにも妙な事に気付く。
というのも、舶来衆は海外に強力な伝手を持っており、開戸の国を海外貿易で富ませると同時に、自分達もそれで大きく利を得ていた。
つまり他所の国に用心棒や傭兵として戦闘員を派遣して、チマチマ稼ぐ必要なんて本当はない筈なのだ。
ならば一体どうして舶来衆は忍びと揉めてまで、用心棒や傭兵を稼業とするのか。
それは恐らく、他所の国に戦闘員を派遣してもおかしくない、疑問を持たれない体裁を求めたのではないだろうかというのが、浮雲の里の推測である。
何の為にそれを求めたのか、まではわからない。
ただでさえ妖怪の考え、価値観は人間とは大きく異なるのに、舶来衆の幹部は海を越えてやってきたのだ。
彼らの思考、目的は、想像する事さえ難しかった。
いずれにしても舶来衆の傭兵仕事を妨害すれば、浮雲の里はまだ舶来衆との戦いを続けてて、戦意は高いというアピールには繋がる。
戦闘員を幾ら排除したところで、舶来衆には大した痛手ではないのかもしれないけれど、今の浮雲の里にとって重要なのは、自分達が健在であると内外に示す事だから。
「調べた通り、舶来衆は十月郡の砦に入ったわ。数は五十。このまま行くと、数日後には砂間の城攻めに加わるわね」
物見に出ていた茜が、僕にそう報告をした。
これまでは僕が物見に出る側だったから、こうして誰かに敵を見て来てもらうというのは、正直に言ってまどろっこしくて仕方ない。
どうしても、自分が動いた方が早いし確実だって思ってしまう。
まぁ、言われてた事だけをしてればよかったこれまでとは違い、一つの任務の全てを自分の責任でこなさなきゃいけなくなった今、他人を使えるようにならなければ、手が回らなくなるだけだというのも、そりゃあわかってはいるんだけれども。
上手く他人を使えるようになるには、もう暫くは掛かりそうだった。
「攻撃は連中が砦を出てから、砂間の城に辿り着くまでの道中に仕掛けよう」
茜の報告を聞いた僕がそう判断を下せば、六座がその考えを肯定するように頷く。
十月郡は月湖の国に属する領地で、今回の舶来衆の雇い主だ。
月湖の国は隣国である緑砂の国と戦争中で、国境にある砂間の城を攻め落とそうとしているという。
尤も今回は、十月郡にも月湖の国にも、もちろん緑砂の国にだって、関わる心算は全くなかった。
僕らの敵は、あくまでも舶来衆のみである。
幾ら傭兵として舶来衆を雇っているとはいえ、僕らと敵対してる訳でもない月湖の国や緑砂の国に関わって、無駄な恨みを買っても損しかない。
故に舶来衆の戦闘員に攻撃を仕掛けるのも、十月郡の砦を出てからだ。
しかし幾ら戦闘員、妖怪に魅了されてるだけの人間とはいえ、五十もの数を相手にたった四人で正面から戦いを挑めば、……手段を選ばなきゃ勝てなくもないとは思うが、無駄な消耗をするだけである。
なので今回、僕らが行う攻撃は、連中が使う武器、銃に必要な火薬や弾を、ついでに食料も運んでる荷車、これを焼き払う事だった。
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