第37話


 舶来衆の傭兵仕事の妨害は、特に何事もなく上手く行った。

 戦闘員達が夜営の準備を始めて動き回ってる中へ、僕が例の、かつて三猿忍軍が得意とした姿隠しの幻術を使って、野営地の中に茜と六座を連れて忍び込み、彼らが火遁で荷車を燃やせば、舶来衆が用意した火薬が盛大に爆発を起こす。

 攻撃を受けたと勘違いした戦闘員、中程度の魅了を受けてるのであろう者達が、勝手に戦いを始めようとして、指揮者がそれを抑えて回るという混乱状態に、……少しだけ暗殺への欲が顔を出しそうになるが、それをどうにか抑え込んで、吉次が確保した退路を使って逃げる。


 これで舶来衆は仕事を果たす事ができなくなって、攻略対象である砂間の城を目の前に、すごすごと帰るしかなくなるだろう。

 当然ながら、雇い主である緑砂の国からの心証は、かなり悪くなる筈だ。

 もしもこれで舶来衆の意識が荷車を守る方に向くのであれば、次は指揮者の暗殺が狙い易くなる。

 舶来衆にとっては最悪のトラブルであっただろうが、僕らにとっては特に何のトラブルもなく、任務が一つ片付いた。

 まぁ、これは僕に任される数多くの任務の一つでしかないので、正直、妙なトラブルが起きても困るのだが。


 いや、どんな任務でも、どんな状況でもトラブルは困るので、お願いだから起きないで欲しい。

 僕は結構、頭で考えてから動きたいタイプなので、不意のトラブルに予定を狂わされるのは困るのだ。

 何故だか、十二歳で下忍になってから、しょっちゅうトラブルに遭遇してる気がするけれども。


 それはさておき、僕らはこのように舶来衆の戦闘員が傭兵として派遣された先を幾つも回り、その全てで仕事の妨害を行ってから、浮雲の里に帰還する。

 一つの任務をこなす度に浮雲の里に戻っていたんじゃ、少ない人数で舶来衆とはやり合えないから。


 忍びの任務は元より危険な上に、今では過重労働まで重なって、割と本気でブラックだ。

 但し、あまり慰めにはならないが、忙しさの分だけ積める経験は大きくて、忍びとしての腕は間違いなく上がってる。

 新しい頭領が里をちゃんと掌握したら、こき使われて駆けずり回った分は、ちゃんと長期の、二カ月とか、三カ月くらいは、纏まった休暇を貰おうと思う。


 さて、そんなブラックな労働を課してる張本人である頭領は、申し訳なさそうにしながらも、またすぐに次の任務を僕に命じた。

 ただ、その内容が少し、……いや、大分と特殊で、僕は思わず首を傾げる。


 というのもその命じられた任務というのが、

「六山の国から妖怪の退治が依頼された。なんでも苔の塊のような妖怪が、再開発を行おうとしてる銀山に住み着いたらしい。人死には出ていないが、鉱山技師が何人も苔塗れにされて、再開発ができないそうだ」

 僕が舶来衆の幹部であるサンドラと遭遇したあの六山の国で、苔の妖怪を退治しろってものだったのだ。

 なんというか、物凄く心当たりがあり過ぎて、一体どうしようか。

 命じた頭領も、これは僕に任せるべきだと思ったらしく、依頼の解決を僕が帰還するまで待ってたらしい。


 ならば僕は六山の国に向かうとして、……舶来衆の傭兵業を妨害する為、あちこちを駆け回った後の吉次、茜、六座の三人を休ませもせずに連れ出すのは、流石にちょっとナシだろう。

 だったら、まぁ、他の同行者を選ぶよりも、一人で行くか。

 相手が生まれたばかりの妖怪で、しかも僕の忍術で生み出した苔がそうなったって言うなら、退治は僕一人でも難しくない。

 それに折角なら、試してみたい事もあったし。


 あぁ、そうか。

 僕ってもう、里の外で一人で行動できる立場なのか。


 どうやって里を抜けるかをずっと考えてた頃の僕にそう言ったら、きっと驚かれるだろう。

 立場が上がった事よりも、どうしてその状況で里を抜けて逃げないのかって風に。

 正式に頭領の側近になって、中忍になって、以前より自由に動ける立場となったけれど、その分、しがらみが増えていた。


 今の頭領に少しずつ期待をするようになって、その手助けをするのが自分の役割だって思い始めて……。

 そして自分の行動で里の為になり、より良い方向に変わるんじゃないかと考えたら、不思議と里に愛着も湧いてくる。

 実に勝手なものだ。

 あんなに、抜けてどこかに行こうと、里を捨てる事を考えてたのに、今ではそれが少し大切になってるなんて。


 この感情も、何時までそうなのかは、わからない。

 もしかしたら里に幻滅して、今度こそ抜けてどこかに行く可能性だってある。


 目まぐるしく変わっていく状況は、とてもじゃないが僕にコントロールできるものじゃないだろう。

 だけどその状況に対する自分の行動だけは、常に自分で決めていく。

 僕にできるのは、きっとそれだけだろう。 

 これから向かう六山の国で出会う何かに対しても、同じように。


 前の任務の疲労は少しも抜けていないが、それでも六山の国に向かう僕の足取りは、単独行動の解放感のお陰か、そんなに重いものじゃなかった。

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