病院にて 上
「普通の病院より病院感がないか?」
多朗は周りをキョロキョロしながら呟いた。
多朗の言う通り、大通りの病院より病院らしさはあるかもしれない。
でも、それは大通りの病院のデザインがいかついからだと思う。確か須賀原源内という芸術家が設計に関わっていたあはずだ。加えて、ここが学園都市旧病院を元に再建されたことも影響しているだろう。
「兄様、大丈夫なの?」
僕たちが話している机の前で兄妹が話している。
「ああ、医者からは一週間安静を言い渡されたけど、それぐらいなら芝居に影響はない。いやー、昨日で公演が終わってラッキーだったな。」
総司先輩が笑っていたが、真那さんはほっぺたを大きく膨らませて怒っていた。
「もう!ラッキーじゃないでしょ!大けがしたんだよ!」
今にも泣きだしそうな顔なことに気が付いたのか総司さんは困ったような顔をして、真那さんの頭に手を置いた。
「ごめん。ごめん。心配かけたね。」
「もう!」
真那さんは俯きながら怒っていたが、口は笑っていた。
「総司!無事か!」
勢いよく扉が開かれ、大男が病室に入ってきた。
「貴志くん。ここは病院だから静かにしないと。」
「おお、すまん。」
大男の後ろからひょろっとした人が出てきて、大男を注意した。
「そこにいるのが、総司くんを助けてくれた子かい?ありがとうね。僕は中央劇団の団長をしている小原って言います。」
「俺は霜田貴志だ。霜田先輩って呼んでもいいぞ。」
小原先輩は僕と握手を交わしてくれて、霜田先輩は多朗の肩をバシバシ叩いていた。
僕との握手を終えると小原先輩は総司先輩の方に向いた。
「総司くん、体の方はそこまで深刻ではないと二色くんから聞いているから心配はしていない。それよりも、なんで裏路地に入ったりしたんだ。脅されているなら、内容によっては擁護してあげるんだが。」
「すいません。」
総司先輩はそう言って顔を下に向けた。
そんな兄を見て、真那さんが声をあげた。
「兄さんはなにも悪くないの。■■が路地裏に入っていくところを私が見ちゃって、それに他の劇団で怪しい薬が売られているって噂があったから不安で」
「なるほど。」
小原先輩は頷いた。
「分かりました。今回はこれで終わりです。総司くん、君は体を治すことに集中しなさい。真那さんはお兄さんの看病に精を出しなさい。まあ、次の劇のセリフを練習しても良いですが、次の上演するのは新人を中心にする劇なので大丈夫です。」
そう残して、小原先輩は病室を後にした。
「悪いな、俺もこの後レッスンが入っているんだ。しっかり治せよ。またな!」
霜田先輩もそう言って部屋を出て行った。
「僕たちも帰ろうか。」
僕は多朗に目配せをして立ち上がった。
「それでは、総司先輩。僕たちも帰ろうと思います。お大事に。」
「ああ、気を付けて帰れよ。ありがとうな。」
僕たちは病室を出た。
廊下に出ると救護委員に話しかけられた。
「すいません。深財くんと林くんですか?」
「はい。そうですけど。」
「ああ、良かった!君たちに会いたいって言っている患者がいるんです。さっき、目を覚ましたばかりなんですけど、お二人と話したいと言っているんです。付いて来てくれますか?」
「はい、いいですよ。」
僕は多朗に目配せすると頷いてくれたので快く引き受けると、救護委員さんはパァっと笑顔になった。
「ありがとうございます。では、案内するのでこちらに付いて来てください。」
そう言って、救護委員さんは歩きだしたので、僕たちは後をついていった。
「そういえば、小原先輩や霜田先輩に■■について聞いておかなくて良かったのか?詳しい情報が分かるかもしれなかっただろう?」
多朗は声を落として、前にいる救護委員さんに聞かれないように尋ねてきた。
「ほら、真那さんが■■についてしゃべった時、その話を強制的に終わらせただろう?要は僕たちに聞かれたくないと思ったからだと思う。なら、僕たちが■■について尋ねても答えてくれない、もしくははぐらかされる可能性の方が高いというわけだ。」「そういうもんか」「まぁ、理由を話せば答えてくれる可能性の方が無きにしも非ずだけど、まあどちらか分からないから追いかけなくてもいいと思うよ。」
「そういえば、俺たちに会いたいって、どんな奴が待っているんだ?」
多朗は疑問を漏らした。
「確か、最近、殺されそうになった人ですよ。」
多朗の声が聞こえたのか、救護委員さんが答えてくれた。
「あっ。着きましたよ。ここです。」
そう言って、救護委員さんは一部屋の病室の扉を示した。
そこには、
「301 山本」
と書かれたネームプレートがあった。
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