過去
「では、最後の質問です。一週間前の土曜日に貴女は山本さんに会いましたね。劇場でお会いした時は一年間も会っていないと言っていたのに。しかも、山本さんと取っ組み合いの喧嘩もなさって「貴女たちは何なんですか!」
追い詰めるような言葉使いで話していると、西海さんが声を荒げた。
「美香さんは何も悪いことはしていません!そもそも、あの人が美香さんを脅したことが、、、」
尊敬する先輩が不利になることを口走ってしまったことに気づいたのだろう、口を押えて俯いてしまった。
そんな、西海さんの背中に佐川さんは手を置いた。
「大丈夫よ。貴女は何も悪くないわ。それに、どうせ時間が経ったらバレてしまうんだから。水里さん、これから話すことを口外しないと誓ってくれますか?」
佐川さんは私の真正面に座り、ジッとみつめてきた。
「ええ、もう事件は終わっていますから。報告書に個人のことは書きませんよ。」
その言葉に安心したのか、少し顔が柔らかくなった気がしたが話を始める時には固くなっていた。
「私は子供を産んだことがあるんですよ。」
いきなり、とんでもないことを言ってきたな!
前田さんはびっくりしすぎて固まっている。私は、つついて正気に戻した。
「さすがに飛ばしすぎましたね。でも、子供はいるんです。今は実家で育ててもらっていますが。でも、私たちって学生でしょ?そんなことがバレたらまともな学生生活は送れないし、赤ちゃんを学生一人で育てられないしね。」
「父親がいるはずですが?」
前田さんは臆さず気にしていることを質問したが、察せ!
西海さんもマジかこいつ!なんて顔をしているし。
「ええ、彼は海の底じゃないかしら?」
「えっ」
「冗談ですよ。でも、私は実家は太いから、あの事件のことについては実家を頼ってしまったのよ。」
少し俯きながら、佐川さんは話している。
「大丈夫ですよ。あのルールは権力争いの暗黙のルールですから。そういう問題は親に相談する方が正しいですよ。先生はあまり頼ると良いことないし。」
私は佐川さんにそう答えた。
「ええ、そうですよね。親に相談した時、『なんで、相談しなかったんだ!』って怒られましたから。そして、子供は無事に産まれました。私は何事もなかったように学生生活と仕事をしていました。出産で長期休むことになるので、独立して、山本ともバディを解散しました。でも、それが間違いだったのかもしれません。鈍った勘を取り戻した頃、山本が訪ねてきました。私は笑顔で出迎えました。でも、里香は開口一番に
『あんた、子供産んだそうね?おめでとう!』
『なんで、知っているの!』
『美香は私の能力を侮りすぎ!私には隠し事は出来ないんだよ。』
『いきなり!『別におめでとうって言っただけじゃん。そういえばね。私、今お金に困っているんだ。貸してくれない?どこかの誰かにバディを解消させられたせいで仕事がなくなっちゃったんだよね。30万でいいよ。』
『なぁ!大金じゃない。私たちは学生なのよ。そんなお金持ってない。』
『うん?持っているよね?私には分かるんだよ。それに、貴女の大事な秘密をばら撒くけど良い?』
『脅すつもり⁉』
『まぁそうだね。で、用意するの?』
私はお金を用意しました。そこから、月に一度私がギリギリ用意できる金額を提示してきました。そして、先週の土曜日にお金を渡すために山本に会いに行きました。
山本は少し焦っているような雰囲気でした。
最初にお金を渡して帰ろうと思っていました。
でも、山本が話しかけてきたんです。
『ごめん。美香。お金をあと100万追加で』
『無理よ。今回だけは無理。』
『フーン。口答えしちゃうんだ。言っとくけど私には、貴女の子供のこととか色々情報を握っているのよ。そういえば、貴女、カラスに狙われているらしいじゃない?この情報をカラスに売ったら貴女の家族はどうなっちゃうのかしら?』
アイツはそう言って、私をニヤニヤしながら見つめていました。
私は頭に血が上って、、、
その後はご存じの通りです。」
話が終わると部屋の雰囲気は重く、暗くなった。
「そういうことですか。」
私の中で何かが消えた。
「先輩、何か分かりましたか?」
前田が聞いてきたが事件に関することは何も分からなかったので正直に答えた。
「何も分からないよ。」
その言葉を聞いて、佐川さんは俯きながら、
「そうですか。」
と答えた。
「正直に話していただいたので、大丈夫ですよ。」
私は慰めに失敗した言葉をかけた。
さすがに、後でお詫びの品を送ることは決定した。
私たちは事務所を後にした。
「井田先輩からの連絡はありませんね。」
前田はスマホを見て、不在着信がないことを確認してがっくりと肩を降ろした。
「数時間しか経っていないのに分かるわけがないだろ。まぁ、学園新聞委員会第八地区支部から山本の寮の反対方向のカメラを調べるように伝えるべきかな。」
喫茶店から逆算すれば分かりそうだが一年前のデータもいるかな。
「そうですね。次はどこに行くんですか?」
前田さんは小走りで私の後をついてきながら尋ねてきた。
「劇場。」
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