病院にて 下

扉を開けた。

「やぁ、待っていたよ。」

目の前には目が包帯で覆われている山本先輩がいた。

「そこで固まっていると話が出来ないだろう?部屋に入って、そこの椅子に座りたまえ。」

僕は、劇場での出来事があって、あの人はとても苦手だが仕方がないので部屋に入って椅子に座った。

僕たちが椅子に座ったことを確認したのか、山本先輩は口を開いた。

「なんで、包帯で目が覆われているのに君たちの動きが分かるのか不思議に思っているだろうから最初に種明かしをしよう。私の目は特別でね。私に見えないものはないんだよ。親は私の目を「千里眼」なんて呼んでいたね。私の目は瞼を閉じていようが、見ることができる。だから、私は君たちの動きが見えるというわけさ。」

両手で万歳を取るような勢いで山本先輩は種明かしをした。

「なるほど。それの力で芦渡さんの秘密を知って、脅していたんですね。」

僕の中で、どうやって芦渡さんの秘密を知ったのかという謎が解かれた。

「へぇー。やっぱり、名探偵様は頭の回転が違うね。脅したことは、本人に聞いたのかい?まぁ、彼女も私の話と関係しているから知っているほうが話しやすくて良いね。もしかして、中央劇団の面々と交流していたのは芦渡さんのことについて聞いていたのかな。彼女は極悪人でしたか?って。」

「なんだと!」

多朗は声を荒げて、立ち上がった。

殴りかかりそうな勢いだったので、さすがに止めた。

「落ち着け!一旦、話を聞いてからだし、ここは救護委員会本部で目の前にいるのは怪我人だから殴ったらマズイ。」

少しだけ、僕の組みつきを解こうともがいていたが、すぐに落ち着いてくれた。

「ああ、そうだな。」

山本先輩は僕らの様子を見て、ニヤニヤと笑っていた。

「落ち着いてくれてなりより。まず、芦渡さんの秘密の件だが私が脅そうとした秘密と彼女の秘密は別だ。そもそも、私はクロウについて追っていてね。その過程で死にかけたりしたんだけど、コツコツとアイツらのことを追っていたんだよね。そしたら、アイツらはヤバい物を都市に流通させているという噂を耳にしたんだ。「これだ!」って思ったね。そして、調べるうちに中央劇団や他の劇団に組織の関係者がいるということが分かったのさ。」

山本先輩は声を落として、まるで怪談を喋っているようで自分のことを自慢するように喋った。

「それが芦渡さん?」


「いや、違う。」

「別の人間さ。さっきまでこの病院にいた人たちは違うけどね。」

山本先輩はやれやれと首を振って否定した。

「そもそも、君たちは彼女から全部聞いているんじゃないのかい?

ああ、これは私の憶測だからね。千里眼は過去を見ることは出来ないからね。」

山本先輩はニヤニヤと笑い続けている。

僕は何を言えばいいのか分からなくなった。

目の前の人物が何か異形なモノだと誤認しかける。

僕はこの得体の知れない雰囲気に飲まれそうになった。

「で?結局、何を俺たちに伝えたいんだよ。」

多朗は少し大きな声で怒鳴った。

僕はその音で少し正気に戻れた気がした。

「ああ、そうだったね。単刀直入に言うと君たちの依頼、芦渡君の願いは成就されない。しかも、下手するとこの学園都市が消えてなくなる可能性があるということさ。やっぱり、風紀委員会はダメだね。崇高な正義なんて青臭いモノに取り憑かれちゃって、要は君たちも無駄なことをせずに大人しく探偵の真似事を止めるべきだということだよ。」

山本先輩は冷えた目を布で覆われた目でこちらを見つめた。

「なんだと!でも、証拠がないということが証明されればいいんだろ!」

多朗が大きな声で自分に言い聞かせるように怒鳴った。

「いや、私が生きている限りそれはないよ。それに証拠もあるし。だから、君たちが依頼を達成するためには私を殺さないといけないのさ。さあ?どうする。」

山本先輩はニタニタと笑い続ける。

「殺せるわけないじゃないですか。」

僕は少し食い気味に答える。

僕は人殺しは嫌いだ。

多朗は黙って山本先輩を見ている。

僕たちの視線が存在していないかのように山本先輩はベッドに座っている。

「そうだ。君たちに良いことを教えよう。証拠を隠している場所だけど、第三区の三条駅ホームのロッカーさ。番号は402、早く取りに行ったほうがいいんじゃないかな。時間もないし。」

山本先輩はそう言ってまた黙った。

「多朗は先に行って。」

僕はそう多朗に頼んだ。

「な!お前はどうするんだ。」

多朗は立ち上がって走りだそうとしていたが、僕の言葉を聞いて、後ろを振り返った。顔には、『何言っているんだお前は』という言葉が張り付いていた。

僕は苦笑した。

「大丈夫だよ。ちょっと、まだ質問したくて。」

「分かった。じゃあ、姉貴にも連絡しておくからな!さすがに殺されそうだからな。」

そう言って、多朗は病室を出て行った。

僕は姉さんのことを思い出して、頭をかいた。きっとこの事件が解決したら姉さんにどやされるんだろうな。

「君は証拠を取りにいったんじゃないのか?」

声のほうを向くと山本先輩が僕を見つめていた。

「聞きたいことがあったんですよ。先輩に。」

「ふーん。何だい?」

「先輩が伝えたかったことって証拠のことじゃないですよね?」

「ほう?どうしてそう思うんだい。」

「なぜなら、先輩の目は過去を見れない。そして、先輩が目覚めたのは僕たちが病院に着いた頃ぐらいでしょう。もしくは、小原先輩が来たくらいなはずです。それなのに、僕たちが芦渡さんの依頼で調査していることは知ることが出来ないはずです。そして、僕の言葉を聞いて、貴女は、芦渡さんの依頼についての証拠を伝えた。しかし、これは僕たちを最初にここに呼んだ理由とは似ているようで違いますよね。」

山本先輩は僕の言葉を聞いて、ニンマリと笑った。

「へぇー。すごいね。頭良いんだね。でも、遅かったね、いやーごめんね。巻き込んじゃって。」

山本先輩が謝った時、壁が爆ぜた。

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