元相棒
「先輩ー!。歩くのが早すぎますよ。佐川は今頃、事務室で記事を書いている時間ですから。大丈夫ですよ。」
前田が私の後を小走りで付いて来ている。
私は前田の言葉を無視して歩き続けた。
私の頭の中は馬鹿どものことでいっぱいだった。
芦渡さんはあいつらと仲が良かった、なんなら淡い恋心を抱いていたのではなかろうか。信用できる相手だ、事件のことについて話す可能性がある。そうなったら、アイツは必ず首を突っ込む、昔からたくさん傷つけられてきたくせに。
アイツが傷つくもしくは死ぬ前にこの事件を片付けないとやばい。
日差しのせいか知らないが嫌な汗が出てきた。
私は無我夢中で歩いて、佐川がいる事務室があるビルに到着した。
「ぜーはー、ぜーはー。歩くの早すぎますよ先輩。はぁー、それにしても結構、綺麗なビルにオフィスを置いているんですねー」
前田はビルを見上げながら呟いた。
「さっさと中に入るぞ。」
そう言って、私はビルの中に入っていった。ビルの中は冷房が入っていなかったので少しガッカリした。前田は私の後ろを黙ってついて来た。
エレベーターを呼び出して、3と描かれたボタンを押した。
エレベーターが3階に停まり、私たちはすぐに目的のオフィスを発見した。
『フリーライター佐川』
そこまで、敷金が高くないとはいえ、それなりの大きさがあるオフィスだった。生徒会役員の一部と関わりがあるらしいから、彼らに有利な記事を書く代わりに沢山の金をもらっているのだろう。
扉の横にあるインターフォンを押す。
数秒間、待っていると女性の声がインターフォンごしに聞こえてきた。
『はい、どちら様ですか?』
「風紀委員の水里だ。少々、お話したいのですが。佐川さんはいらっしゃいますか?」
『はい!佐川さんはいらっしゃいます。本日の予定もないのでお話はできるでしょうが私の一存では決められないので、ちょっと待ってください。』
その後、ドタバタとした音がインターフォンごしに聞こえたあと静かになった。
「佐川さんはいらっしゃるそうですね。」
「まぁ、自分たちに会ってくれるかは分からないけどね」
私たちは黙って数分間待っていた。
正直にいって、今日は会えないかなと思っていると、
ガチャ
「佐川さんは会うそうなのでお入りください。」
扉が開いて、私と然程変わらない身長の女子生徒が現れた。
「私は助手をやっている西海といいます。」
めっちゃ及び腰になっている西海さんは室内に入るよう促した。
室内に入ってみると、外の優美さはなく機能美を追求したような部屋だった。三部屋に分けられているようで、最初の部屋は応接室として使われているらしい。入り口の扉以外の二つの扉は仕事部屋と仮眠室に繋がっているらしい。
西海さんは私たちを応接間に通すと、仮眠室に入っていってお茶を出してくれた。
「ありがとう。そうだ、西海さん、山本って名前の生徒について知っているかい?こういう外見なのだけれど。」
佐川が質問をはぐらかす可能性があったので、助手からも何か情報が得られないかと質問をしてみた。前田さんはお茶をすすっている。
西海さんは少し悩んだ後、
「いえ、知りません。誰でしょうか?」
としらを切った。
「そうですか。いや、この人は佐川さんの元同僚らしくてね。聞いてみたかったんだよ。バディを解消してから連絡を取り合っていたら、もちろん君が知っているはずだからね。」
「はぁ、」
私の言葉に何か安堵したのか頷いたあと、西海さんは佐川さんを呼びに行った。
「先輩、あの人は何かを知っていますよ。私の勘が言っています。」
前田さんが壁を見つめながら、呟いた。私も同様に壁を見つめながら話した。
「だからといって問い詰めることは出来ないよ。今回は終わった事件の後片付けみたいなモノなんだから。」
「でも、芦渡さんは脅されていました。私は脅した人を捕まえるまでこの事件は解決したとは思っていません。」
「ところで、山本の容体はどうなんだ?目覚めたら、尋問するつもりだろう?」
「はい。でも、昨日病院に連絡したところ未だ目を覚ましていないようです。」
「そうか。」
ガチャ
仕事部屋の扉が開いた。中からムッとした顔で出てきたのは劇場で会った顔だった。
「初めましては両方言わなくてもいいでしょ。用件は何?事件は解決したはずで、アイツも運よく生き残ったらしいじゃない。」
佐川さんは自分たちとは話す気がないとでも言いたいのかツンツンした口調でまくし立てた。
私は出来るだけ笑顔を作って話し始めた。
「今日はその山本さんについて知りたいんですよ。」
彼女は少し眉毛をピクッと動かした。
「私たちの捜査で山本さんのカチューシャをどこに仕舞っていたのか疑問を持ったんですね。でも、山本さんの6つのカチューシャはどこにも無かったのです。ですから、元仲間な貴女に話を聞いてみたくて伺いに参った次第です。」
「へぇー、そう。」
彼女は立ったまま足を床に叩きつけながら私を睨んだ。
「あまり、話すことは無いわ。強いて言うなら、私がアイツと一緒に記事を書いていた頃、学園新聞委員会第八地区支部で活動していた時よ、アイツは自分の寮の反対方向に歩いて帰ってたわね。アイツの一番変な所よ。」
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