恐るべき早さ
風紀委員本部 応接室
私が応接室の中に入ると既に全員が揃っていた。一人だけあまり会いたくない奴がいたが無視しようと決めた。
「ごめん。待った?♡」
「ええ、待ちましたよ。皆さん15分行動という素晴らしい行いをしましたからね。私も5分前に来たのなら文句も言いませんがあなたは集合時間ギリギリに来ました。あなたは役員としての姿勢を忘れているんではないんですか?」
私の和やかな言葉をバッサリと切って鋼河鉄次くんは私を注意した。鋼河君、座っている刑事さんがびっくりしてるよ。
「ああ、ごめん。道路が混んでてね。30分前には着いてYU☆U☆GAにキミを待っている予定だったんだがね。」
私の言葉を聞いて、一切の感情を見せず眼鏡をクイッとした。
「そうだったのなら、すみません。しかし、あなたの予定は叶わなかったでしょう。生徒会の予定で私は一時間三十分前にここにいたので。」
そう言って、私を憐れんだ目で見てきた。うっぜぇー
これ以上コントを続ける気も無くしたのでさっさと席に座る。
応接室には、前田、井田、委員長、鋼河君、そして二人の刑事が座っている。
委員長は全員を見渡してから口を開いた。
「では、全員揃ったから山本里香殺人未遂事件の犯人である芦渡さんの処置について、そして生徒会報告用の事実確認を行う。」
「すいません。北方委員長、生徒会からお伝えすることがあります。あなたは今すぐにクロウの捜査の指揮に入ってください。この事件は水里さんが介入しているので貴女は早急にクロウの捜査に行ってください。会長からの命ですので、貴女が生徒会の調査員に命令してもちゃんと言うことを聞きます。さすがに捜査が進まなすぎです。今すぐに立て直し、逮捕してください。」
鋼河君はそう言って委員長を追い出した。
「わざわざ、副生徒会長が来たのはそのためか。すまんな。水里、あとは頼む。」
そう言って委員長は部屋を出て行った。
鋼河は手を叩いて仕切り直した。
「では、芦渡さんの処遇ですが、生徒会は13送りでいいと思います。どうですか、水里さん。異論はありますか?」
そう言って私を正面から見つめてきた。
私は睨み返しながら口を開いた。
「ああ、それでいいと思う。だが、一般生徒としてだ。一応、脅されてやったし、被害者は生きているからな。あと、特殊にぶち込んだらあの子は自殺するぞ。」
鋼河は少し考え込んでから頷いた。
「いいでしょう。彼女は外では執行猶予を与えるべき女性ともいえますし、特殊ほどのテロとは言えません。いいでしょう、一般生徒ですが一応要注意人物として13送りとしましょう。では、私は学生務にこの処置に決まったと報告するので、帰らせてもらいます。そこにいる新入生の刑事さんには貴女から説明してください。では、皆さんまた会う日まで。」
そう言って鋼河は応接室から出て行った。
鋼河が出て行った応接室は珍獣を見たような顔で固まっている人間とその様子を見て溜息をついている人間がいた。
一番最初に正気に戻った狗丘刑事が口を開いた。
「ええっと今、何が起こったんですか?」
自分が聞きたいことが多すぎて混乱しているようだ。
「よし!全部一から説明しよう。ほら、正気に戻って。井田、そこの子犬を正気に戻して。」
私の声に大川さんも正気というか私の話を聞ける状態に戻ったようだ。前田さんは井田が揺すって正気に戻した。
全員が話を聞ける状態になったことを確認して口を開いた。
「まず、この学園都市で校則違反した者は生徒会が処遇を決める。そして、このルールの重要な部分はこの学園都市に所属する生徒はどんな犯罪をしても生徒会が処遇を決めるということだ。」
「どんなことでもか?」
少し疑った目で大川さんが尋ねてきた。
「ええ、どんなことでも学園都市内の生徒が行った犯罪はテロだとしても生徒会が処遇を決める。」
「その処遇の一つが13送りだということですね。」
「まぁ、そういうことですよ。狗丘刑事。そして、13送りは強盗などの生徒が送られる校区が13学区だからそういう名前がついたんです。そして、その中でも執行猶予扱いで一般生徒として送られる場合と罪自体は重くないが監視が必要な生徒を要注意生徒として送られる、そしてテロや殺人未遂の事件を起こした生徒は特殊として送られるんです。」
「待ってください。その場合、芦渡さんは特殊に分類されるんじゃないでしょうか?」
狗丘さんは当然の疑問を提起する。
「そうですよ。先輩!そもそも、山本が関係しているからって自首した犯人の処分を決めるのに生徒会副会長が来るのはおかしいですよ。」
子犬がわけもわからない疑問に頭を抱えた。
そんな二人を落ち着かせた。
「まあまあ、落ち着け。」
そして、うやうやしく講義をとる教授のように聴講生の顔を見て、私は口を開いた。
「まず、芦渡さんが特殊送りにしなかったのは可哀そうだから。そもそも、この学園都市で個人に攻撃して、殺してしまうことはほとんどない。あっても確実に死んでいることが多いから第14区に移送される。だから、特殊送りになるのはテロを起こした奴らだけだ。しかも、人を殺していない奴ら限定だが。どっちにしろテロを起こした奴は徹底した軟禁状態になり、毎日反省文を書かされる。だが、奴らは一本の固い意志を持っているから大抵の奴は卒業まで耐えきる。そこで芦渡さんの場合、そんな所に入れても耐え切れずに自殺する可能性がある。しかも、今の彼女の精神は誰かがケアをしなくてはならない状態だ。なら、13送りの要注意人物として処理をすれば精神の先生を付けることができるからな。それが分かっているから生徒会も13送りで満足したんだろう。
あと、生徒会副委員長が来た理由だったな。それは簡単な理由だ。使われた毒物がDisablyxinだからさ。」
「そういや、Disablyxinって毒物ってどういうものなんだ?名前を聞いてもピンとこないんだが?」
大川さんはそう言って首を捻った。
「ああ、Disablyxinはトリカブトやふぐ毒とは違って毒性も高くないし、最近出てきた毒物ですから知らないのも無理はない。しかも、普通の人にはさほど効果はないし、ペットボトル一本ぐらい飲まないと死なないからね。そして、Disablyxinの最も恐れられている効果が異能を麻痺させることさ。ペットボトルの水に一滴だけDisablyxinを混ぜたものを浴びただけで異能力者は体が一時的に言うことがきかなくなる。この効果が生徒会がすぐにこの毒を違則化したのさ。」
「だが、死ぬことがあまりないんだろ?」
大川さんは少し念を押すように尋ねた。
「まぁ、後遺症で大変なことになりかける可能性があるが、まぁ死ぬことはない。だが、一時的に動けなくなるのが痛い。異能テロが抑えられなくなるからな。」
私の言葉に井田が頷きながら、口を開いた。
「生徒会的には自分たちのボディーガードが水をかけられただけで無力化されるのが恐ろしいと感じたんでしょうね。」
その言葉を最後に皆黙り込んでしまった。
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