襲撃前 中

「ここが山本の寮ですか。以外と普通ですね。」

第八校区の第二寮棟の二階に奴の寮室がある。学園都市のアングラに潜む記者だからと言って学生なのは変わらないのだ。暗部も風紀委員も罪を犯さない限り部屋に無断で入ることは禁忌なのだ。今回のように許可証を持っていないと中に入らせてもらえない。花蓮さんの場合は特例だ。

「どんな校則違反者でさえ寮室の外見は普通だ。お隣が暗部組織の元締めだった人だっているんだぞ。隣に。」

その瞬間、子犬の首がグリンと動いてこちらを見た。

「一年の話を蒸し返すな。茜ちゃんだってミスして私に許可書を突き出したじゃない。」

また、子犬の首がグリンと動いて委員長を見た。その視線を無視して茜ちゃんは歩きだした。耳が少し赤みがかかっていた。

寮のエントランスに入り、受付のベルを鳴らすと奥から寮母さんが出てきた。

寮母さんの共通衣装に身をつつみ、エプロンをかけていた。少しユルフワな印象があるマダムだった。

「まあまあ、どうしたの?うちの寮の子たちじゃなさそうだし?」

受付から寮母さんが用件を尋ねた。

すると、子犬が急に凛々しくなり、ズイと許可書を突きつけた。

「風紀委員会です。山本里香さんの部屋を捜索します。これは、無期限の調査なので合い鍵は私たちが保管します。」

短くそして早く命令された言葉に寮母さんは動じずに口を開いた。

「あらあら~、まあまあ。分かったわ、鍵を取ってくるから少しだけ待ってね。」

そういって、寮母さんは奥に消えた。

しばらく経たぬうちにトタトタと小走りで寮母さんが戻ってきた。

「はい。これが山本さんの寮室の鍵よ。」

そう言って一枚のカードキーを前田の手のひらに乗せた。

「ありがとうございます。では、委員長、水里先輩、山本の部屋に向かいましょう。」

「山本さんの部屋は4階の突き当りよ。がんばってね!」

寮母さんはそう言って奥に消えた。


「ここが山本の部屋。」

神妙な顔で子犬がドアを見つめている。自分が追っていた敵の本拠地への入り口が目の前にあり、山本の悪事を暴くものが飛びつける位置に置いてあるのだ。興奮してもしょうがないだろう。

そんな子犬の頭に委員長はチョップした。

「落ち着け。家主は今病院で眠っているし、私たちがいる。さっさと中に入って探すぞ。」

そう言って、子犬から鍵を奪い、扉を解錠し中に入っていった。

「うわっ!ちょっと委員長~。抜かさないでくださいよ~」

そう言って子犬も後に続いて中に入っていった。

私も中に入ろう   とした時、後ろを振り向いた。

殺気を感じたと思ったが杞憂だったようだ。


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