陰謀論

警察署から出て、すぐにタクシーに乗り込み花蓮さんの寮に向かった。

委員長も一緒に乗り込んだが目的地に着くまで終始無言だった。

寮門前に着き、受付で寮母さんに花蓮さんの部屋を開けてくれるように頼んだ。

少し待つように言われ、エントランスの前で座って待っていると、山のような大きさの寮母さんがこちらに向かってきた。ズンズンと効果音をたてながらこちらの正面に立つと

「いくら、風紀委員だからって他人の部屋に入れるわけがないだろ。わけをいいな。話はそれからだ。尼子、そんな怖い顔をしていたって無駄だよ。私は自分の寮の子たちを守らないといけないんだ。」

と言った。

「今から話すことを墓まで持っていくなら話す。」

「安心しな。口は固い。」

そう言って寮母さんは胸を張った。私は委員長のほうに目を向けると、委員長は頷いた。私は今回の事件のことそして、花蓮さんのことについて話した。

「そんなことがあったのかい。でも、芦渡さんの寮室を調べる理由にならないんじゃないのかい?」

「あんな、優しい花蓮さんが犯罪をするのはただごとではないから、誰かに脅されたんじゃないかって思ったのでその証拠があったらいいなぁという理由です。」

私の言葉を聞いて少し怪訝な顔をしたが寮母さんは頷いてくれた。

「よし!分かった。付いて来な。」

そう言って寮母さんは花蓮さんの部屋に案内してくれた。

「花蓮さんがそんな悩みがあったなんてね。ここ数日、ずっと部屋に閉じこもっていたし、おかしいとは思っていたんだ。いつもは笑顔で私の仕事を手伝ってくれたんだけどね。本当に残念だよ。」

花蓮さんの部屋に行く途中寮母さんは呟いた。

「ここが花蓮さんの部屋だよ。」

そういって合い鍵を取り出して扉を開けてくれた。

「じゃあ、私は仕事があるから、戻らせてもらうよ。扉はオートロックだから気を付けな。」

寮母さんはそう言い残して事務室に戻っていった。

私たちは寮母さんが歩きだして少し間を置いて、花蓮さんの部屋に視線を戻した。

花蓮さんの部屋は日頃の掃除が行き届いているのかとても綺麗だった。入学から少ししか経っていないからか私物が充実しているとは言えないが、ベッドの上にはクマのぬいぐるみが置いてあった。

「水里、ここで何をする気だ?お前は取調室でなにか分かったのか?自分一人で背負い込むのはお前の悪い癖だ。」

と委員長が尋ねてきた。少し潔癖症のきらいがある人である委員長は整えられている部屋を見ると少し饒舌になる。少々ウザいので自分の妄想を語った。

「まずね、花蓮さんは毒の名前について知らなかった。しかも、私の嘘に乗った。よって、花蓮さんは毒について詳しく知らず、第三者から貰ったはずだ。そして、Disablyxinは通常のルートでは手に入れることができない。毒のことについて知らない芦渡さんにDisablyxinの流通ルートなんて分からないはずだ。それなら毒を渡した人物がいるはずでそいつに繋がる証拠がここにあるはずと思ったわけさ。」

委員長は少しだけかぶりをふったがサッサと部屋に入るとゴミ箱を漁り始めた。

「ほらっ!お前は机周りを探せ!私としては部屋を汚すことは非常に心苦しいが、Disablyxinを入手できる人物は確実に見つけなければならないからな。」

私は少しだけ笑窪を作ってしまったがすぐに消して作業を開始した。

2時間ほど部屋を探したが大した成果は見られなかった。

「見つけられなかったな。」

委員長はひっくり返したり動かしたものを元に戻しながら呟いた。

「おかしいなぁ。実は知っていて売人をかばってるとか?ありそうで困るな。」

呟きながら部屋を見渡していると、ぬいぐるみの背中にあるファスナーを見つけた。

私は赤ん坊を抱くように丁寧に持ち上げると、恐る恐る背中のファスナーを開けた。

ファスナーを開けきると中から一枚の手紙が出てきた。

「見つかったか!」

委員長は自分のしていた作業を止めて私の肩から覗き込んできた。

手紙を開いてみると、今朝花蓮さんが言っていた犯罪計画とその下にほんの2,3文綴られていただけだった。

「『私はあなたと同じあの記者に恨みを持つものです。同封されていた毒であの記者を殺してください。実行日は『愛と罪』初公演日だ。もし、君が言うこと聞かないのであれば、君の秘密をばら撒こう。私は立派な悪人だが君も立派な化け物だろう?』あまりうれしい気持ちにはなれないな。だがこれで芦渡が二重に脅されていたことが分かった。しかも、山本に恨みを持っていることも分かった。」

委員長は私から手紙を取り上げてから、透明な袋をポケットから取り出して丁寧に手紙をしまった。

「次は山本の部屋だな。たしか前田が部屋をひっくり返してもいいように許可証を取りにいっていたはずだ。よし!戻るぞ、水里!」

そういって委員長はズンズンと部屋を勇ましく出て行った。

カチューシャは一つもなかった。

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