殺人犯、自首する!

私は紅茶を飲んでいる。ハルマリ茶園のセカンドフラッシュで作ったミルクティーを飲んでいる。少し大きめの窓に付けているカーテンの隙間から漏れ出す光が今朝の空気を神聖なものにしている。事件が発生してから3日が経った。事件はそれほど進展を見せておらず、ここ数日で新入りとはとても仲良くなった。劇場の封鎖も今日で終わり、明日からまた上演が始まるようだ。弟分たちは事件の日から芦渡さんとは会っていないらしく私もそのことが少し心配をしている。チーンとトースターからパンが焼けた合図がなり、椅子から立ち上がってパンを取ろうとしたらスマホがなった。スマホの画面には『北片 茜』と表示されていた。

「もしもし。」

「一回で出たな。よく聞け、驚くなよ。「もったいぶらずさっさと用件を言って。事件の捜査が進展したのか?」まぁ落ち着け。犯人が捕まった。お前の妄想どおり役者が犯人だった。それも主演の芦渡花蓮だ。さっき警察に出頭してきた。」

「まだ、尋問はまだだろ!私がいくまで尋問を開始するなと言っとけ!私が最初に尋問するから!いますぐそっちに行く。理由は朝早くで犯人もお腹が空いているだろうから何か食わしとけ!」

「おい!何をいtt」

用件をスマホに叩きつけると、委員長の言葉を聞かずに電話を切り、タクシーを呼ぶためにスマホを操作した。


タクシーに乗り込んでから十分ほどで警察署に着いた。

警察署に入ると委員長と大川と狗丘が立っていた。私の姿を見ると少し怒りながら委員長が近づいてきた。

「水里、なんのつもりだ。お前らしくない。」

「いや、まぁ弟分が仲良くしていた子で頻繁に一緒に帰っていただけだ。」

「そうか。   よし。ついて来い。芦渡は取調室1だ。後ろの二人も行きましょう。犯人は自白したくてウズウズしている。」

私は二人の刑事と委員長の後ろに付いて行きながら心の動悸を抑えていた。今までこんな裏切りにあったことはなかったからだろうか。そんなことを考えながら歩いていると取調室に着いてしまった。大川が振り向いて私を見ながら口を開いた。

「では、まず俺が先に入ってその後入ってきてくれ。」

そう言うと、取り調べ室に入っていった。私も後に続いて入ろうとすると、委員長が肩を掴んできた。

「大丈夫か?」

「大丈夫だ。問題ない。」

委員長の手を振り払い、取調室に入室した。

息を飲む音がした。

「なんで?」

キョトンと間抜け面を晒しながら驚いている花蓮さんを無視して椅子に座る。

頭の上にあるリングカーソルが消え、理解の処理が終わったのか花蓮さんは目をキッとさせ、

「なんで、貴女がいるんですか!」

「お前を尋問するため。」「っつ!」

花蓮さんは噛みつこうとしたが私が闘牛士のようにヒラリと躱したので口を噛んだ。

「お前は自分の罪を曝け出して償いたいんだろう?さっさと話せ!」

そう一喝するとうなだれてボソボソと喋り始めた。

「私が行った犯行手口は、まず私が劇の席を一席予約して山本さんに座ってもらったんです。私は第二幕の前半は出番がないのでそこで殺そうと思ったんです。そして第二幕の前半の中盤ぐらいで毒を盛りました。」

「カメラには君の姿は写ってなかったが?」

「小道具のファントムのマントを使ったんです。あれは姿を消せますから。これで私の罪は認められますよね?」

「動機は?君と山本とは接点があるとは思えないが?」

その言葉を聞いた瞬間、花蓮さんは体を振るわせながら顔に般若の面をつけた。

「動機⁉動機ですって!ありますよ!あの悪魔に鉄槌を下したんです。私の生活を破壊しようとしたあの女を!」

立ち上がり叫びだした花蓮さんを大川はなだめながら質問した。

「落ち着け。芦渡さん、なぜあなたは脅されたんですか?」

その質問を聞いて花蓮さんは急に無口になり、小刻みに震えだした。そしてとても小さな声で話し始めた。

「私って中学時代はイジメられていたんですよ。イミコ、イミコって私を囲んで手を叩くんです。雨でイベントが潰れた時は全て私のせいになった。先生に助けを求めても、周りの大人に助けを求めても、両親に助けを求めても誰も助けてくれなかった。だから、私は私のことを誰も知らないここに来た。でも、それは、虚構だった。あの人は、私が能力者だって知っていた。会ったことないのに。私は怖くなった。尊敬する人がたくさんいた、友達ができた、大切なものがたくさんできた。それを壊したく、失いたくなかった。あの人は金を払ったら、証拠のデータを消してくれるって言った。でも、私は到底払える額じゃなかった。だから、あの人を殺そうと決意したんです。悪いことだと分かっていました。でもやるしかなかった。でも、毒を飲ました後怖くなってしまったんです。委員長さんが大丈夫だって言ったときホッとしてしまいました。今、こうして喋っているときも罪を裁いてもらえると安心しています。私ってズルいですね。」

そう言い終わって花蓮さんは口を閉じた。

「ああ、そうだな。嬢ちゃん、ここからは俺が変わろう。」

大川は憐れんだ目を花蓮さんに向けたあとこちらを向いて確認を取った。私は頷きながら、最後の質問を行った。

「じゃあ、最後に。山本を毒殺しかけた毒はグラヤノトキシンなんだけど、どこで入手したんだい?大抵はハチミツから極少量とれる毒なんだけど?」

その言葉を聞いた瞬間、花蓮さんは少し肩を少し揺らし、目は右上に動いた。

「はい。そうです。市販のハチミツから作りました。」

と答えてくれた。

「ありがとう。ああ、それと確認なんだけど君の部屋に入って証拠品を探すから。部屋が少し荒れちゃうかもだけど許してね。」

そう言って取調室を出た。

後ろでは、「だめです!」と花蓮さんのあせる声が聞こえたが無視をした。

取調室の扉を出ると、委員長が立っていた。

「満足したか?」

「今から芦渡の寮室に行くぞ。」

そう言って唖然とした表情の委員長を置いて出口まで歩いていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る