質疑応答
風紀委員会本部の入り口から奥に入り、風紀委員長室を抜けると応接室がある。応接室の用途は大抵の場合、藤村さんや生徒会のメンバーをもてなしたり、話し合う場となる。
応接室のドアを開けると二人の御廻りさんが座っていた。
一人は全体が四角のような体で警察の中でも特殊降りだろうと思う。まぁほぼ軍人のほうがここでの勤務はしやすいと思うが。
もう一人は座れば牡丹を体現している大和撫子のようだ。スーツもしっかりと決まっており、暑苦しい隣と比べて清涼な雰囲気だ。ただ少し固い感じがある。出世コースから外されたのかな?
まぁ第一印象はとても良いとは言えないかな。
委員長が応接室の中に入り、
「どうぞ。水里さん、こちらにお座りください。」
そう頭を下げながら座るべき場所を手で示した。
「お前らは後ろで立っとけよ。一応、補助員は秘書という立ち位置だから。」
そう小声で言うと、後ろで小さく頷いてくれた。
私は胸を張り、堂々と応接室に入室した。
二人のお廻りはその様子に少しあっけに取られたようだがすぐに元の様子に戻った。
そして、私はわざわざ音を立てて座った。私が座ったことを確認した委員長は話をしようと口を開けようとしたとき、
「何なんだ!君は!」とさすがに我慢ができなかったのか大男のほうが声を荒げた。
女性のほうは座っていたがその目は私を非難していた。
「すいませんね。名乗るのが、遅れました。私の名前は水里尼子と言います。これでも、風紀委員会執行部名誉部員及び全生徒会執行長をしております。」
「そうじゃない!最近の学生はマナーも知らないのか。大人に対する敬意は,,,,,」
「大川さん、これが普通です。」
「はぁ?」
委員長の言葉を聞いて自分の脳の処理が追い付いていないのか二人とも呆けた顔をしている。そんな二人を放っておいて委員長は話し続けた。
「この中で最も権力を持っているのは水里さんです。そもそも全生徒会役員はこの都市の政治家だと思ってください。下っ端役員でも途轍もない権力を有しているんです。しかも、水里さんの場合は2本線の役職持ちです。下手をするとあなた方の首が飛ぶもしくはこの都市で生きにくくなります。」
その話を聞き、大川はとても震えながら口を開いた。
「な、なぜ、そこまで権力を持っているんだ?」
「まぁそこは私が説明した方がいいな。まず、君たちはここを他の学園都市と一緒にしているだろうが、ここはそんなに生易しくない。ここは学校という箱に世界を沢山詰め込んだ場所さ。金の力や人の力でのし上がれる場所でもある。スラムのような悪ガキがいる裏路地、金と権力そして才能を使いもがき生き抜かなければならない生徒会、ここに大人が介入できる場所はないんですよ。「なぜだ!」まぁまぁ落ち着いて。ここからが重要なんですよ。」
周りを見渡すと私の話に委員長を除く全員が耳を傾けていた。
「まず、生徒会役員のバックボーンには色々な業界の大物たちがいるんですよ。少し手を回せば、一介の警察官を首にできるほどのね。だからこそ、ここでは大人の介入できることが少ないんです。子供たちは親に頼めば、邪魔な大人を消すことが出来ると知っていますから。例外で言えば、3本線まで登り詰めた生徒は自分の力で排除できると思いますが。この話を聞いて皆さんはなぜ親も子供たちの頼みを聞くのかと思っているでしょう?その答えは単純でここが世界の縮図だからですよ。ここでトップに君臨するということは大抵の場合、その世代の王となると同義なんですよ。大人になったってここでの順位が色々なことに影響してくるんです。だからこそ大物たちは自分の子供たちが生徒会のトップになることを手助けするんです。ただ、あまりに親に頼りすぎるとダサいという理由で登り詰めることはできなくなるので彼らは自分たちの子供を邪魔する大人たちを消しているんです。分かりましたか?」
私が話し終えると二人の警察官は深く溜息を洩らし、一人は天井を見上げ、もう一人は床のシミを眺めた。
急に委員長が手を叩いた。急な出来事に二人の警察官はとても驚いた様子だった。
「まぁこの話はここまでにして一旦各々、自己紹介をしましょう。」
手を合わせ笑顔で委員長は提案した。
「ああ、そうだな。うん、そうしよう。」大川は一人で納得し、頷いた。
「まずは俺が自己紹介しよう。名前は大川庄一朗だ。特殊警邏隊出身で巡査部長だ。」
「私は狗丘柊と申します。以後よろしくお願いします。彼は私の部下です。」
と簡潔に自己紹介してくれた。
「ありがとうございます。今度はこちらからですね。私の紹介は先程したので後ろの事務員たちを紹介します。右から深財真と林多朗です。まぁ自己紹介はこれくらいにしてそろそろ本題に入りましょう。」
◇
「そろそろ本題に入りましょう。」
そういうと姉さんは僕たちに座るように促した。僕たちが座ると全員の視線が僕たちに集中した。
「単刀直入に聞く。お前たちのどちらか事務員のカードを落とさなかったか?」
姉さんの問いに多朗はキョトンとし、僕は冷や汗が出た。その様子に気が付いたのか姉さんは呆れと少し悲しそうな顔を一瞬見せ、
「真、お前が落としたんだな。」
と一言呟いた。僕は頷くことしかできなかった。
すると、大川さんが身を乗り出し問い質してきた。
「いつだ。いつ落とした!」
凄い剣幕だったので少々目に汗が出た。
「大川さん、そんなふうに迫ったら言いにくいですよ。あの子も涙目ですし。」
少し暴走している大川さんを狗丘さんが止めてくれた。あと、涙ではなく目の汗だ。
「よし!真。この女に昨日の劇場で会ったか?」
姉さんはそう言って一枚の写真を見せてきた。その写真には種類の違う髪留めを留めているが昨日会った妖怪だった。
「はい。昨日会いました。」
「そうか。いつ、どこで、どんな様子だった?」
と姉さんは深く椅子に座って尋ねてきた。二人の刑事さんは手帳にメモをしている。
「えーっと、僕が遭遇したのは第一幕と第二幕の幕間で、体を伸ばしている最中でした。肩を叩いてきて話しかけてきました。普通の制服姿で腕に記者と書かれた腕章をつけていて、大きなカメラを肩から掛けていて、眼鏡をしていて髪をカチューシャで留めていました。」
「カチューシャだと!」
話していると急に大川さんが大声をだした。僕が少し驚いてしまうと大川さんは怖がらせてしまったと思ったのか少し萎れてしまった。
「そして、僕の過去を知ってるなんて言ってきたので怖くなって少しその人を突き飛ばして逃げるように席に戻りました。」
あの時の薄気味悪さが蘇ってきたせいで俯きながら話していたので、話が終わって顔を上げると三者三葉の反応をしていた。
姉さんは手を口にあてて深く物思いに沈み、大川さんは「坊主の過去ってなんだ?」と首をかしげ、隣から狗丘さんが「断甲館事件の生き残りだったはずです。」と小声で囁く。大川さんはその事件について思い出したのか僕に哀れみの視線を投げかけた。隣の多朗が心配そうな目でこちらを見ていたので大丈夫だ。と首をふった。
「今の所、分かったことがある。」
大川さんは平坦な声で喋り始めた。僕たちは大川さんに視線を集めた。
「まず、被害者の所持品の中にカチューシャがないってこと。そして、そこから考えられるのは犯人が犯行後に持ち去ったということだ。容疑者はカチューシャを持っていた奴ということだ。」
捜査に進展があったから最後は声を大きくして宣言した。
姉さんの方を見るとまだ手を口にあてて何かを考えているようだったが大川さんの言葉には頷いているようだった。
次の瞬間、大川さんは勢いよく立ち上がった。
「よし!容疑者は大体絞り込めた。狗丘、昨日カチューシャをつけていた人物が被害者と繋がりがあったか洗うぞ!」
と言い残すと勢いよく応接室を飛び出していった。
「まったく。私は上司なんですが。では、失礼します。」
と狗丘さんは僕たちに軽くお辞儀をして大川さんの後を追って行った。
二人の刑事が出ていくと、姉さんはあからさまに姿勢を崩し、ソファに体を預けた。
「はぁー、あ!そういえば山本を殺しかけた毒ってどんなものか分かった?」
「ああ、一昨日に違法薬物になったDisablyxinという毒物さ。風紀委員会でもテロリスト鎮圧用に使おうか迷っていたんだが、一定量を超すと劇物になることが分かったから止めた。被害者には致死量を超える毒を盛られていなかったが今も昏睡状態だし、目が見えなくなるそうだ。」
「そうか」
そう一言呟くと姉さんはまた思孝の海に船を出した。
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