呼び出し

日を跨いで帰ってきた寮で短めの睡眠を取った私は、食パンをトーストしている間、紅茶を飲みながら新聞を読んでいた。一面が中央劇場での殺人未遂事件についてデカデカと書かれていた。すると、スマホが振動し始めた。

スマホの画面には『北片 茜』という名前が出ていた。私は朝に電話してくることのない友人を不思議に思いながら、通話を開始した。

「もしもし。」

この時、耳栓をしなかったことを後悔した。

「水里!いますぐお前の補助事務員を連れて、本部に来い!」

とても声を張り上げながら委員長は用件を言うと電話を切った。

私は耳をキンキンさせた元凶に呪詛を吐きながら真に電話をかけた。

「おはよう真。ああ、いま起きたの。悪いけどすぐに制服に着替えて寮門の前に来なさい。いますぐ。多朗も起こして力ずくで連れてきなさい。ええ?理由はいつものよ。下手を打てば犯罪者にされるわよ。」

念を押してから電話を切って、私も急いで仕度をした。

門に二人で到着するとすでに姉さんが到着しており、タクシーを待たせていた。

姉さんは僕たち二人の姿に気づくと、

「早く乗れ。ハリーハリー!」

と手招きさせタクシーに詰め込んだ。

最後に姉さんが乗り込むと、

「行ってくれ。」

と言い、タクシーは走り出した。

そこまで無言だった多朗が

「先輩。なんでこんな朝にタクシーに乗ってるんですか?あと目的地はどこですか?」

と姉さんに尋ねた。

「風紀委員会本部、全校生徒会の本部ビルだな。」

と少しぶっきらぼうに答えた。姉さんの声には少し怒気が含まれているように感じた。こんな時はあまり喋りかけて機嫌を損ねるのは良くない。

それは多朗も同感だったらしくそれ以上は何も追及しなかった。

車内に沈黙の帳が下りた。

しばらくして、中心街に入り信号を2,3基通り過ぎるとタクシーが停まった。

姉さんはせかせかとタクシーから降りると、

「ほら、着いたぞ。全校生徒会の本部ビルだ。サッサと降りていくぞ。」

タクシーから降りるとそこには十三階建ての大きなビルがあった。

全生徒会本部ビルは地上13階、地下4階建ての建物で内部には風紀委員会本部の他に生徒会室や他の委員会の本部が置かれている。隣には学園都市市役所、学園都市中央警察署がある。そして向かいには学園都市中央病院がある。

いつもはとても人が行き来するこの学園都市の中心はとても静まり返っていた。

「ほら。ボッサとしないで。」

姉さんに呼ばれ、僕は急いで走り出した。

正直、私はとても驚いている。弟分たちは私が怒っていると思ったのかダンマリとして私に付いて来ているが、そもそも朝から怒鳴られて気分が良くなるわけがない。それに茜が怒鳴って本部に私を呼ぶことがないのだ。暗部とか暴力団との関わりがバレたわけではないと思うがあそこまで怒鳴って本部に呼ぶことは只事ではない。エレベーターに舎弟と一緒に乗り込み、4階へのボタンを押した。

少々待ってエレベーターの扉が開き、4階に到着すると、目の前にはとても不機嫌な風紀委員長殿が立っていた。

私は近くの弟分たちがビックと驚くほど顔を笑顔にして風紀委員長に近づいた。

「どうしたの?茜ちゃん。こんな朝早くに私を呼び出すなんてらしくないよ?」

その声を聞いた茜ちゃんはすさまじい速度で不機嫌な顔から疲れすぎた顔に変わった。

「はぁー。ほんっとぉにお前のその声を聞いたら気が抜けてとても疲れる。」委員長は自分の頬を叩いて気を張りなおした。「よし。話は本部の方でしよう。ほら、君たちもこっちについてきなさい。」

そう言うと委員長は歩きだした。

「で?委員長、私を呼び出したわけは何だい?」

委員長は振り向いて私ごしに二人を少し見た後話し始めた。

「お前が昨日、エラリー・クイーンの小説に似ていて被害者の持ち物に他人の持ち物があればリーチとか言ってただろ?本当に他人の持ち物が出てきてな、「ホントか⁉」まぁ落ち着け。そしてその他人の持ち物というのがお前の補助事務員カードだったんだよ。」

私は驚いて後ろを振り返ったが後ろには少しビクビクしている弟分たちだった。ちょっと情けないからもう少し堂々としろ。そう思いながら目で少し睨んだあと、二人も背筋が伸びたのを見て満足し、委員長の方を向いて口を開いた。

「まぁ、普通に考えてどっちかが落としたものを拾っただけだろ。もしくはアイツに難癖につけられそうになって逃げるときに落とした可能性もあるな。まあ私に言ってきてないから昨日無くした場合があるな。で?そんなことを話すために怒った口調で早朝に呼び出したの?」

委員長は少しげんなりとした様子になったあと答え始めた。

「いや、早朝に呼び出すのは本意じゃないんだが警察との兼ね合いだな。そして、その情報を持ってきてこれからお前の補助員に質問するのが外様から来た新人だからだ。」

「マジか。ホントに外様の新人がやるのか?藤村さんじゃなく?」

「ああ。藤村さんは別件で忙しいんだ。ほら、クロウの薬物が校則違反の違法薬物になっただろう。だから、クロウの一斉検挙で生徒会の一部と風紀委員の一部の統率と警察の責任者として抜擢されているんだ。」

「分かった。その新人さんはどんな感じ何だい?」

「一人はゴツゴツな大男なんだが、報告が終わったあと「で、どんな化け物が来るんだ?」って聞いてきたな、もう一人はスラっとした女性なんだが、私たちの仕事を学生のおままごとだと思ってるな。まぁ二人とも学園都市の噂を鵜呑みにしているな。もしくは真摯に向き合おうとして何も見えていないか。」

「どちらにしろ、とても大変なんだな。分かった。客人は応接室だろ質問もそこでやろう。校則で私の言うことは大抵の場合は従わないといけないからな。まぁ、応接室と取り調べ室も変わらないだろ?」



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