第12話 魔王との戦い
「フハハハハ!人間ども!!我に勝とうなど、100年早いわ!」
魔王はこれでもかと言うくらいベタなセリフを吐きながら、史彦たちを迎え撃った。
魔王は俺と同じくらいの背で人間の平均よりは少し大きいくらいだった。
青白い顔に真っ白な髪をオールバックになでつけたその上には真っ黒な王冠をかぶっている。そして、黒いローブの下には何やら豪華そうな白い鎧が見える。モノトーンに統一された装備は悪くないのだが、顔には何やら呪文のようなタトゥーにピアス、そして指輪にネックレス、ゴテゴテした腕輪など、装飾品がやたらと多い。
そして全身から目に見えるほどのドス黒い瘴気をまとっている。
情報の通り、慢心なのか余裕なのか魔王城には強い魔物はほとんどおらず、魔王の間に殴り込むまでには怯える召使らしき者しかいなかった。
魔王が待ち構えていた場所は元リスカ王国の玉座がある王の間だった。
かなりの広さがある。
天井も高く、もともとはきらびやかで豪華な装飾がされていたこの王の間だが、今では黒い瘴気がたちこめ、カーテンは破れ、置かれた壺は割られたまま、飾られた絵画は真っ二つに切られて半分しかないという正に荒廃を絵に描いたような有様だった。
玉座には剣や槍、ラージアックスにメイスなど、数えきれないほどの武器が隙間なく玉座に取り付けられていた。
「フハハハハハ、この武器達は無謀にもこの魔王に戦いを挑み、そして破れた者たちの武器の数々。お前たちの武器も、我のコレクションに加えてやろう……。」
その言葉を聞いた史彦は思わず目を丸くした。
何だよ……。
今までも、魔王に戦いを挑んだ奴があの武器の数ほどいたのか……。
護衛が少ないわけだ。
魔王が強すぎて、必要ないのだ。
むしろ魔王自身の暇つぶしのために、わざとここまで簡単に来れるようにしているんじゃないのか?
そんな疑惑まで浮かんでくる。
これだけの数の刺客が挑んでダメだったのに、俺たちにあの魔王を倒せるのか……。
「弱気にならないで史彦。私たちは誰よりも強い。」
「そうだ、魔王よりもな。」
オカンとオトン……。
まさか、家族3人で世界を救うため、魔王に戦いを挑むなんてな……。
そんな事、全く想像していなかった。
でも、俺たちは勝つ!
俺たち家族のキズナは、魔王よりも強いんだ!!
◇◇◇
魔王との戦いは熾烈を極めた。
昨日、あんな告白を聞いた後だったが、史彦たちは皆ペースを乱すことなく連携をとりながら魔王との戦いを進めていった。
オカンとオヤジの事はまだ間に合う。そう史彦は考えていた。
魔王を倒した後、俺の方からイザムがオヤジであることをオカンにバラしてやる。
オヤジがこの世界ににいるとわかれば、オカンも婚約を解消するだろう。
それで全て解決だ。もっと早くにそうすれば良かったのだ。そして俺たちは、再び家族に戻るのだ。
まずは、コイツをさっさと倒さなければ。
史彦はそんな事を考えながら魔王に挑んだ。
しかし、やはり魔王は強かった。
特に魔王の操る闇魔法はやっかいで、暗闇から鋭いトゲのようなものが突然伸びてきて襲ってくるのだ。
オカンがアイスシールドで防いだり、魔力を感知した瞬間に間一髪で避けるかで対応するしかないのだが、かなり神経を消耗してしまう。
ジリ貧の状態がしばらく続いた。
しかし、少しずつ魔王の攻撃のクセや、パターンを読めてきた史彦たちは、徐々に攻撃に転じていった。
史彦に加速の風魔法を受けたイザムのファイヤソードが、ついに魔王の腹部を横に薙いだ。
「ぐむっ…。」
「少し浅いか…。だが、手ごたえはあった。」
後ろに飛び、魔王との距離を取りながらイザムがつぶやいた。
オヤジが左利きだったのが、ここで効果を発揮した。人間の急所の一つである
幸い魔王も体の構造は人間と同じだったようで、魔王は苦しそうに片膝をついていた。
よし、流れがこっちに来始めている。
勝てる、勝てるぞ……。
史彦がそう感じた時だった。
「人間ども、人間どもおおおおおお!!」
魔王は絶叫し、膝をついたまま禍々しい指輪をたくさん付けた左手を頭上に突き上げた。
その手のひらに、魔力が集中していく…。
「大技が来るぞ。気をつけろ!」
「デーモンズスピア!」
左手を下ろしながら、そう叫んだ。その先には、ティナがいた…。
アイスシールドにより魔王の攻撃の大半を防いでいたティナをまずは片付けるつもりのようだ。
「ティナ、そいつは魔法では防げん。避けろ!」
イザムがティナに向かって叫んだが、ティナは目もうつろで、立っているのがやっとの状態だった。
魔力を消費し過ぎて、極度の酩酊状態に陥りかけているようだ。
「チィッ」
イザムはまだ残っていた加速の力を一気に放出し、飛ぶようにティナへと向かって行った。
闇より深い、黒く鋭い槍がティナに迫る…。
グサッ
「ああ…。」
史彦のうめき声ともつかぬ悲鳴が、まるで他人の声のように耳に届いた。
イザムはティナの目の前で仁王立ちし、その胸には、黒い槍が突き刺さっていた。
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