第10話 再会2
驚いて振り返ると、そこに立っていたのはあの垂らし前髪のイザムだった。
なんでイザムがここに?
それより俺を呼んだ者は誰だ?
史彦の後ろにはイザムの他に人影はない。
「史彦、俺だ。父さんだよ…。」
イザムがそう史彦に声をかける。
「…。」
感極まった表情で史彦を見つめるイザムと見つめ合いながら、史彦は頭が真っ白になった。
え?
なになに?
どういう事?
ん?イザムがオヤジだったの?
いやいや、外見も全然違うけど、中身も全然違うじゃん!?
あの、オカンの尻に敷かれ続けた座布団のように、キャラも存在も、そして髪の毛も薄々だったあのオヤジが…。
ヒャハハハハとか言って、女をはべらしていたあのイザムだった…?
なんか、剣とかもペロペロ舐めてたよな......。
ダメだ…。
感情が追いつかん…。
頭がショートし、呆然となっている史彦にイザムは近づき、熱く抱擁してきた。
「お前が息子とは全く気づかず…。この前の入学試験では危うくお前を殺す所だったよ…。本当にすまん…。」
確かに試合中死ねえええええ!とか言ってたけど…。弱すぎるからその可能性は全くなかったとも言えず、とりあえずこれまでの経緯をオヤジに聞いてみた。
やはりオヤジも史彦とは別の戦場で兵士に転生していたらしい。
転生先のイザムという男も、腕に彫られた刺青から盗賊出身ということと、軍の名簿から名前とはるか遠い場所にある出身地はわかったが、それ以上の情報はほとんどないということだった。
まあ、この時代はそんな人間ばかりだから、ティナみたいな人間の方が珍しいのだろう。
「それで、常人とはかけ離れた魔力を持っていた俺は、色々と調子に乗ってしまったわけだ…。」
オヤジは垂らし前髪の先を気まずそうに指でいじりながら、ポツリとそう言った。
「あ、そうだ!オカンもこの世界に転生してるんだよ!俺たちと同じ学校の…。」
「ああ、実は俺も今日気づいた。入学式で学校に向かう途中でな。道端に捨ててあった麻の袋をまだ使えるやーんと言いながら、うれしそうに拾っている女がいてな…。すぐに気づいたよ。その後、お前と母さんの再開シーンを遠くで見ていたというわけだ。」
「なんでその時に声をかけないんだよ!オカンにも知らせてやらないと…。」
「待て!」
そう言ってイザムオトンは史彦の肩をがっしりと掴んだ。
「転生したとはいえ、俺はこの異世界で、大学デビューならぬ、転生デビューを果たし、遊びまくってしまった…。この世界、魔力が強いってだけでやたらモテるんだよ…髪の毛もフサフサだし。仕方ないだろ…。そして、そんな女好きイザムが実は父さんだと母さんが知ったら、どうなると思う?冷静になって考えてみろ…。」
「…殺されるな。」
そうだった。前に一度、オヤジの背広のポケットからキャバクラ嬢の名刺が出てきた時、オヤジはオカンにキレイにワンツーを決められて、鼻血を出していた…。
オカンは転生前からすでに戦闘民族だった事を忘れていたようだ…。
「俺は母さんに正体がバレないよう全力を尽くすつもりだ。史彦も、協力してくれるな?」
「…。でも…。」
確かに、カミングアウトは今日明日では難しいかもしれないけど…。
オヤジ、ずっとそうするつもりなのか…。
「心配するな。父さんもお前たちが一緒に転生しているとわかった以上、心を入れ替えるつもりだ。その上で様子を見て、母さんにちゃんと謝り、許してもらう。」
「…わかったよ。」
そう返事をした史彦は、空を見上げながら、心の中でつぶやいた。
神様、オカンとオヤジまで一緒に転生させるのは、やめて欲しかったです…。
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