第9話 再会
「もしかして、史彦か?」
「もしかして…オカン?」
「「えええええええええええ!?」」
2人で同時にお互いを指でさし合って大声を上げ、周囲の生徒たちが皆こちらを振り向いたのだった。
「なんで?なんでこんな所におるん!?」
「オカンこそ!」
「顔が外国人やから、全然わからんかったわ…。」
「それはオカンもだろ!しかも何で若くなってるんだよ!?もう完全に別人じゃん…。」
「それは私もわからん…。」
どうやらオカンも朝ごはんを食べていたら急に意識が遠くなり、ティナという若い女の身体で目覚めたのだという。
「なんかこの子、流行りの病気で死にかけてたみたいでな。急に元気になったんで、みんなびっくりしてたわ。」
オカンも史彦と似たような状況で転生してきてるようだが、環境が全然違っていた。
史彦の転生先であるアベルは元々の故郷を魔王軍に攻め込まれ、家族も亡くしている。
一方、オカンの転生先であるティナは貴族の一人娘だそうだ。
もともとのティナは名門女子学校に通っていたのだが、オカンが転生した後に異常な魔力の高さを見出され、半ばむりやりこの学校の試験を受けさせられる事になったらしい。
魔王との戦いは本当に厳しく、少しでも戦力になりそうな者は女子供、そして貴族も兵士に駆り出される状況とは聞いていたけど、本当に余裕がないんだな…。
「それより、あんたもう帰り。ここは魔物もおって危険な場所やで。」
「いや、帰れって言われても…。大阪行きのバスでもあるのかよ。」
「何でやねん!て、あんたさっきからしゃべり方キモいで。関西弁忘れたんか?」
「オカンこそ、転生してからもなんで関西弁なんだよ…。オカンだけだぞ…。」
「私は一生関西弁や。って、生まれ変わっとるがな〜。」
「…。」
「今ツッコまなあかんとこやで。私は生まれ変わっても関西弁や。最初はティナがいきなり変な話し方になったーって、家族はびっくりしてたけどな。」
「そりゃ、そうだろう……。」
「そんなことより、史彦も転生してるってことは…。お父さんも転生してるんちゃう?」
「確かに…。」
俺が転生する前…
俺は家で朝ごはんを食べていた。その時、オカンとオヤジも一緒に朝ごはんを食べていたのだ。オヤジもこの世界に転生している可能性は充分にある…。
「もし大阪に1人で残ってるんやったら、私のパート先に欠勤の連絡してくれてたらええけど。あの日、シフトの日やってん。まあしてないやろなぁ…。あの人、気いきかんからなぁ。」
「前世のことは忘れろよ…。まあ、オヤジのことは俺も気をつけておくよ。」
「お願いな。あの人、ぼーっとしてるからこんな所来たら即死亡やで。それよりあんたも気いつけて…。私も人のこと言われへんけど、息子が兵隊さんになってしもて…心配やわ…。」
「そんな心配すんなって。俺ってこの世界じゃけっこう強いんだぜ。」
「やめてぇ、そんな死亡フラグ立てるような発言…。」
「…。」
その日の訓練が終わった後も(初日から地獄のようなものだった。)ティナオカンは私の屋敷に住めとしつこく言ったきたが、そんな事できるわけないだろとなんとか断ってその日は別れた。
あたりはすっかりと暮れ、史彦は部屋を借りている宿へとクタクタになった身体を引きずるように歩いていた。この世界はアパートのようなものはなく、宿にまとまった金を払って住むシステムなのだ。日本と違って宿泊代がバカ高いわけではないので充分払える額なのだが、一階が居酒屋みたいな場所のため騒々しく、ぐっすり眠ることが出来ないのが残念すぎる…。
しかし、オカンまで転生しているとは…。
なんか、萎えるというか、異世界感みたいなものが半減した気分だわ…。
そしてさようならティナ…。好きになりかけていたけど、オカンとわかったとたんティナがオカンとしか思えなくなってしまった…。
ところで、オヤジは今どこに?もしオヤジも転生してきてるなら、無事に生きているだろうか?年齢も顔も変わってるだろうし、オヤジはオカンほどキャラが濃くないから見つけるのは大変だぞ…。
「史彦…。」
そんな事を史彦が考えていると、後ろから名前を呼ぶ声がした。
アベルではなく、史彦と。
この名を知っているのは、この世界にはオカンしかいないはず…。
まさか、オヤジ!?
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