第7話 運命の出会い

 その試合会場の中央には高さ10メートルくらいの、巨大な樹木のような氷柱ができていたのだ。



 その上の方に、氷の枝に絡みとられるようにしてやや大きめのハンドアックスを装備した若い男が宙吊りにされていた。



 その男は恐怖に怯えながら、逆さになった顔をひきつらせている。



 男に向かって対戦相手らしき若い女がなにやら叫んでいるのが見えた。その女性はミスリル製の胸当てに黄金を細部にあしらったスカートがついたドレスアーマーにミスリルのレイピアと、かなり高価な装備だ。左手は魔法のために素手だが、魔力を高めるためのバングルもこれまたミスリル製だ。 

 


 そして彼女自身も、かなり美人だった。年は史彦と同じ16.7歳くらいだろうか。長い栗色の髪は豊かに波打ち、大きくキレイな青い目がとても印象的だ。



 かなり好みかも…。



「あんた、そんな実力で、試合中によう私を口説こうおもたな!」



 その女の子は、吊るされた男に向かってそう怒鳴っていた。



 んん?関西弁!?

 今この子、関西弁喋ってなかった?



 この世界に転生した史彦は、もちろんこの世界の言葉を話せるはずもない。



 しかし、最初からこの世界の人々は日本語を話し、史彦の話す日本語も相手に普通に通じていた。



 史彦が転生してきたから、この世界の言語が日本語に切り替わった?そんなふうに考えたこともあったが、神様でもあるまいし、そんなむちゃくちゃな事が起こるはずもない。



 考えてもわからなかったのでそんな事も忘れていたけど。



 それにしても、こんなバリバリ西洋ファンタジー世界で関西弁を聞けるなんて。



 しかも、なにを隠そう史彦も関西人だったのだ。ただ、周りが標準語で話すので、東京に来た地方人みたいに標準語で話すようになっただけなのだ。



 あれ? 



 この女の子は、俺と同じ転生者なんじゃないのか?


 関西人は関西弁に誇りを持っているのだ。関西から転生してきて、関西弁を捨てずに過ごしている可能性はかなり高い。



 相手が降参し、悠々と試合会場を降りるその女の子に、史彦は近づいて行った。



「あの、突然ですが、もしかして転生者の方ですか?」



「え?もしかして、あんたもなん!?」



 その女の子は驚きつつも、嬉しそうに微笑みながら史彦の手を握ってきた。



「えー!めちゃうれしい!他にも転生者がおったなんて!わたしもいきなり転生してきたかおもたら、えらい強なってるし、魔物もあるわで、もうメチャクチャやってん。あんた、元々どこの人なん?あたしは…」



「お嬢様…。」



 後ろから白髪の、見るからに執事っぽい人に声をかけられて、まくしたてるようにしゃべっていた女の子は舌をペロリと出した。



 かわいい…。



「あかんあかん。この後社交会あるんやったわ。私、この世界でお嬢やねん。笑うやろ?ほんま、メチャクチャやでな。私、ティナっていうねん。あんたは?…アベルな。覚えとく!また、学校でよろしくな!」



 ティナは2人とも試験を合格する前提で話を進めると、ダッシュで去っていった。



 他にも転生者がいたのか…。



 てっきり転生者は史彦だけだと勝手に思っていたのだが。



 しかも、あんな美人だと…。

 おいおい、転生生活、美味しすぎるだろ。

 これからの学園生活、バラ色の予感しかしないわ…。

 史彦はウキウキした気分で合格発表の日を待ち構えたのだった。


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