第6話 決闘の行方

「ヒャハハハ!切り刻んでやるぜええええ!!」


 俺の対戦相手はそんな物騒な事を口走りながら、自分の剣に舌を這わせていた……。


 なんか、違った意味で怖い……。


 史彦の対戦相手は、かなりヤバいやつみたいだ…。



「イザム様ー、頑張って〜!」



 若い女たちが、対戦相手に向けて黄色い声援を飛ばしている。試合前に、コイツが周りにはべらせていた女たちだ。


 イザムと呼ばれたその男はそんな女たちにしきりに投げキッスを繰り返している。


 とんでもなくウゼえ……。


 その男は見るからに軽薄そうな面構えで、年は史彦より少し上っぽいがそんなに変わらないだろう。目が吊り目で、少し顔が長めで顔立ちは微妙なのだが前髪を片方だけやたらと伸ばし、雰囲気イケメンを狙っていた。


 花京院典明かお前は……。


 そして全身黒一色のスティール製プレートアーマーを装備しており髪型と装備だけはやたらとカッコいい。


 


「ヒャハハハ!俺のファイアソードを見て、恐怖に震えるがいい!」



 イザムはスティール製の片手剣を左手で構え、その剣に右手を当てがうと何やら呪文を唱え始めた。



 こいつ、左利きなのか。剣の間合い等を計算し直さないと。左利きは身体の右にしか無い臓器である肝臓を攻撃しやすいため、注意しないといけないのである。



 そして、ファイアソードだと?


 史彦はその言葉に自分の耳を疑った。



 剣に炎をまとわりつかせる魔法は、威力は確かにすごいのだが魔力効率が極端に悪く、莫大な魔力が必要なはずなのだが…。



 こんな見るからにかませ犬っぽい奴にそんな芸当ができるわけ…。



「見よおおおおお!俺のファイアソードをををををを!」



 イザムの握る剣は、確かに燃え盛る炎を帯び、刀身もその熱で赤くなっていた。


「キャー、イザム様ー!カッコいい!」


 イザムを応援している女達は、目をハートにしてその剣をうっとりと見つめていた。


 

 こいつ、本当にファイアソードを作りやがった!なんて魔力してやがる…。



「ヒャハハハ!死ねえええええ!!」



 イザムはファイアソードを頭上に掲げながら史彦に突っ込んできた。


「だから、殺しちゃダメなんだって。」



 そうつぶやきながら、史彦は剣を持っていない方の左手をイザムに向け呪文を唱えた。



「なにいいいい!?」



 史彦の手のひらから突風が放たれると、イザムの剣から炎が吹き消された。そして剣を見つめ、呆然としているイザムの後ろに回り込み、史彦は剣の柄でイザムの背中を強く突いた。



「ガフッ。」



 あっけなく気を失ったイザムはその場に倒れ、白目をむいた。



「イヤーン、イザム様〜!」



 イザムを応援していた女たちがハンカチを噛んでいる。



 弱い…。



 魔力の量は確かにハンパなかったが、それに頼りすぎて剣の稽古もろくにしてないみたいだ。剣の進行方向を読み、向かい風を当てる要領で魔力を込めた風を吹きつければ、剣から炎を剥ぐことくらい簡単なことなのだ。


 転生してから一年。


 史彦は魔物との戦争で戦いの最前線に立ち、命懸けで剣と魔法の技術を磨いてきた。


 こんなナンパ野郎に負けるはずがないのである。


 せっかく魔力が高いのに、女にうつつを抜かしてるからだぜ。

 

 まあとりあえず、勝てて良かった。

 

 これで試験も合格だ!




「おおおおおお!!」

 

 その直後、大きな歓声が聞こえてきて、史彦はそちらの方を振り向いた。一瞬自分への歓声かと思ったのだが、どうやら隣の会場のようだ。



 そういえば、こちらと並行して隣の試合会場でも他の受験者が対戦していたな。



 そんな事を考えながら隣の会場を見て史彦は目を疑った。



 

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