第5話 入学試験

 そんな異世界転生の日から一年がたとうとした頃。


 史彦は試験会場で、対戦相手と剣を構え合っていた。




 

 史彦が転生したこの世界は、封印されていた魔王が蘇り、魔物たちを引き連れて各国に戦争を仕掛けていた。



 この世界の空が昼でも夕方のように赤いのは、魔王の出す闇の瘴気が原因だという。



 動物たちはその闇の瘴気で凶悪化していき、魔物と呼ばれるようになった。そんな魔物たちで編成された魔王軍は強大で、数多くあった国は次々と滅ぼされ、ここヴァリス王国と同盟を結んだ数国が抵抗しているがかなり苦戦しているという状態だ。

 

 史彦の転生パターンは、元々この世界にいた人間に転生するというものだった。ヴァリス軍に所属するアベルという名の少年兵に転生したのだ。

 


 こちらに転生してから、魔王軍との戦争で危ない目にもたくさんあったが、アベルはかなり強い。



 いや、アベルを元々知っていた周りが驚いていたから、史彦が転生した事で強くなったのだろう。転生ボーナスというやつなのか、魔力の量がこの世界の人間のそれよりかなり多いのだ。



 得意の風魔法を駆使して魔物を倒し、周りから称賛を受ける。


 俺tueeツェー状態である。

 平凡な高校生からヒーローへ。

 まさに理想通りの転生生活なのである。

 楽しくないわけがないじゃないか。




 そんな中、まだ若い史彦は軍幹部の目に止まり、この試験への挑戦を命令された。


 史彦が受験するヴァリス王立学校とはヴァリス王国の首都ゼラームにあり、軍の精鋭を養成する国で1番入るのが難しいとされる学校だ。



 この学校では高度な魔法の使い方や戦闘技術など、さまざまな訓練を受ける事ができるらしい。かなりの実力がないと、受験することすら出来ないエリート校だ。



 こうして今日、試験当日を迎えたのだ。試験といっても他の受験者と対戦して実力を示せばいいらしい。



 前の世界みたいに、筆記試験とかなくて本当に良かった。



 試験のルールは相手をなるべく傷つけず、まいったと言わせるか、気を失わせれば勝ちだ。



 ただし、相手を殺せば即失格。



 なんとしてもこの学校に入学し、本格的な訓練を受けてさらに強くなってやる。


 



 装備についても、この首都でかなり良質なものを手に入れる事が出来た。

 首都という事で、扱っている装備品の質も種類も地方とは段違いだった。


 剣はスティール製の小剣ショートソードにミスリル製の鎖帷子くさりかたびら、それに魔法防御を高める濃い茶色のマントを羽織るスタイルだ。


 ミスリル製は魔法耐性が高いのだがその分値段が高く、もう少し全身を覆ってくれる鎧が欲しかったのだが、予算的に鎖帷子を買うのに精一杯だったのだ。


 ただ、このスタイルはファンタジー感がかなり出ていて、我ながら気に入ってはいる。


 準備は整った。


 


 試合場は石で作られた正方形のリングでそこそこの広さがあった。



 それが全部で四つあり、それぞれの試合場で受験者たちが同時並行して試合を行なっていくのだ。



 それらを囲むようにして、高い場所に観客席もある。



 やはり首都という事で人口も多いのだろうか。その席にはほぼ満員くらいの客が入り、声援を送ったり、時にはヤジを飛ばしたりしていた。



 史彦たち受験者の試合も、この辺りの人から見れば恒例の娯楽行事という事なのだろう。


 俺はみんなに注目されてる方が実力を発揮できるんだ。


 史彦は大勢の観客を見渡しながら不敵に微笑んだ。



 そして、試験官や観客たちが見守る中、史彦は目の前の相手に集中した。


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