第4話 莫大な魔力

「おい!ボーッとしてないでおまえも戦えよ!」


 近くにいたヤンキー面が史彦を怒鳴りつけた。


「え……何をすれば?」


「ふざけてんのか?ホラ!」


 ヤンキー面はろくな説明もしないまま左手のひらを前にかざした。


 すると、氷のカケラが空中に作られて少しずつ大きくなっていき、長細い鋭利な氷のナイフみたいになった。


 すげえ……。


「バカ野郎、何ボーッとしてんだよ!?」


 ヤンキーは使っていない右手で史彦の頭を叩いた。


 痛い……、何も叩かなくても……。


「おまえの風魔法でコイツをオークにぶつけるんだよ!まあ、おまえの魔力程度じゃオークに傷を追わせる程度だろうが、何もしないよりはマシだ。早く飛ばせ!」


「あの……。俺も火の玉作りたいんだけど。」


「バカ!お前は風使いだろ?どこの世界に火と風魔法の両方操れる人間がいるんだよ!?」


「なるほど……そういう設定なんすね。」


「良いから早く放ってくれよおおお!」


 少し泣きそうな顔でヤンキー面にせかされ、史彦は見よう見まねで左手のひらをその氷にかざしてみた。


 こうか?


 そして意識を左手のひらに集中させてみる。


 すると左手のひらが少し温かくなり、何かエネルギーのようなものがそこに集まっていくのがわかった。


 おお……、これが魔法か……。


 史彦の左手の先には小さな空気の渦のようなものが出来ており球状のその内部では、激しい嵐が吹き荒れているように見えた。


 史彦が意識を込めれば込めるほど、その嵐は強く、激しくなっていった。


「おい……何だよそれ……その魔力……。」


 ヤンキー面がそれを見て顔色を変え、何かつぶやいていたが、今そんな事を気にする余裕は史彦にはなかった。


 えーと、この魔法を使って氷を飛ばし、モンスターにぶつけるんだったよな。


 どいつにしよう。


 少し遠いけど、あの豪華ごうかで強そうな装備をしているあのオークにしてみるか?


 ブォン


 史彦がそのオークに狙いを定めた瞬間、鈍い風のうなりのような音がして、作り出した嵐が吹き荒れる球体と目の前の氷が消えていた。


 あれ、どこに飛んだんだ?


 早すぎて見えなかった……。


 ちゃんと当たったのか?


 史彦は狙ったオークがどうなったのか目を凝らした。


 あれ、普通に立ってる……。


 外したのか……と思った瞬間、史彦が狙ったオークの後ろに赤い飛沫が散ったのが見えた。


 そして、そのオークがゆっくりと後ろに倒れていった。


 よく見ると、倒れたオークの左目付近から血が流れている。史彦の飛ばした氷のカケラがオークの左目から後頭部へと貫通したようである。


「ん?オーク達の様子が変だぞ?」


 近くで他の兵士が突然そう言った。


 今まで怒声を上げながらこちらに向かってきていたオーク達が歩みを止め何やら慌てているようだ。


 さらに俺が殺したオークの周りは大騒ぎになっており、もはや戦争どころではない様子だ。


「なあ……。」


 隣でその様子を見ていたヤンキー面が俺に声をかけた。


「あれって……おまえがやったの?」


「多分……。」


「いや……そんなはずないだろ……この距離で、あの威力……おまえの魔力で!?いやいや……。」


 ヤンキー面は俺を見つめながら自問自答を繰り返した。


 その目には以前のようなさげすみの色はなく、何か異質な者でも見るような恐れの色さえ浮かんでいた。


 ◆◆◆◆◆

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