第3話 魔王軍の襲来

「おいおいまさか……。」


 史彦に絡んでいたヤンキー面が血相を変えた。


「魔王軍が攻めてきたぞ!全員配置につけ!」


 上官らしき者が発した号令に弾かれるようにしてヤンキー面は走り出した。


「何してんだ!おまえも来るんだよ。」


 ヤンキー面に怒鳴られ、仕方なく史彦もその後を追いかけた。


 


 高い石の壁から見下ろすと、多くのモンスターが隊列を組んでこちらに進軍しているではないか。


 そう、モンスターだ。


 人間と同じように鎧をつけ、斧や剣などで武装しているが、豚が長い牙を生やしたような顔をしており身体もかなり大きい。


 ファンタジーゲームではオークと呼ばれている奴にイメージがそっくりだ。


 コイツら、俺が最初に倒れていた場所で死んでいたのと同じヤツ......。


 そんな奴らが、大軍で砦に向かって押し寄せているのだ。


 おいおい……。


 マジで俺はロードオブザリングみたいな世界に転生してしまったようだ。


 あの映画は好きだったけど、実際あんな怖そうなのが軍隊で襲ってくるなんて……。


 恐ろしい事この上ない。


 ああもう帰りたい……。


 元の世界へ帰りたい!


 俺は心の中で真剣に祈ってみたが、何か起きそうな気配は微塵みじんも感じられない。


 俺は恐る恐るもう一度オークの軍勢を観察した。


 ゴツゴツとした岩場を進んでいるその軍勢は、砦からまだ少し距離があるように思えるが、こちらに到着するのは時間の問題だ。


 兵士たちは指揮官達の命令で大急ぎで配置に着いている。


 そして、凶悪な面構えのオーク軍はついに門の近くまでやって来た。


 「門を破られる前に止めろ!」


 号令により、弓を構えた兵士達がオーク達に向けて矢を放った。


 何匹かのオーク達は弓を受けて倒れるも、オーク達の数は多く後ろから続々とこちらに押し寄せてきている。


「次だ!」


 次の号令で、弓兵の後ろに控えていた兵士達が前に出た。


 あれ?この兵士たちは弓矢とかは持っておらず、剣などの武器は腰に下げてあり、両手には何も持っていないじゃないか。


 武器も持たずに、これから何をするつもりなんだろう?


 その兵士たちは、オーク達に向けてなにも持っていない左のひらを突き出した。


 何してるんだこの人たち……。


 俺がそう思っていると、手のひらの少し先の空間に小さな炎が形作られていく……。


 炎は少しずつ大きくなり、ソフトボールくらいの火の玉になった。


 その火の玉は、ユラユラと火をゆらめかせながら空中にふわふわと浮いているのである。

 

 まるで手品のようだ。


 いや……これは……。


 多分魔法だ……。


 すげえ……。


「放て!」


 その号令で、炎を作り出した兵士のそばに控えていた別の兵士がその火の玉に手をかざす。


 ひゅう


 鋭い風切り音がして、火の玉が勢いよくオークの方へ飛んでいった。


 火の玉が命中したオークは全身火だるまになったり、吹き飛ばされたりしていた。


 すげえ……。


 今火の玉を飛ばしたのは風?


 火の魔法で火の玉を作り出し、別の兵士が風魔法でそれを飛ばしたのか?


 すごいけど、少しめんどいくさいな……。


 ゲームだと呪文を唱えるだけで火の玉が現れて、勝手に敵のとこまで飛んでいくのだが。


 この世界だと


 火の玉を作る→飛ばす


 で二つの工程がいるみたいだ。


 しかも魔法を放てる兵士の数が少なく、オークの数もほとんど減っていない。


 焼け石に何とか言うやつだ。


 この状況、マジでヤバいんじゃ……。


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