第2話 俺の名はアベル

 見つけてくれた兵士に連れられて歩く事約2時間。時計などはないので、単たる自分の感覚だけだけど。


 史彦は砦のようなところに連れてこられた。


 少し高台にあるその砦は、高い石の壁で四方を囲われて何人もの兵士が警備しており物々しい雰囲気だ。


 史彦は兵士達に連れられて大きな門を通り、砦の中へと入った。


 砦の中では包帯を巻いたり、横たわって意識もないような兵士たちもかなり目立つ。


 この砦の重苦しい雰囲気や、兵士たちの険しい顔つきを見ても、どうやら戦況は思わしくないみたいだ。


 いきなりこんな所に転生なんて……。


 神様、これは何かの罰ゲームですか?


 こんな絶望的な状況の中で、史彦は早くも泣きそうになった。


「おい、アベル。よく生きてたな。」


 目つきの悪い兵士がニヤニヤしながらこちらに近づいてきた。


 俺の名前、アベルって言うのか。


 てゆうか、これってどう言う種類の転生になるの?


 史彦は今の状況についていけず激しく混乱した。


 そして、なんなんだコイツ……。


 アベルの知り合いっぽいが、友好的な雰囲気は全然感じない。


 何か見下されているような……そんな目つきで史彦を見ている。


「おまえだけよく生き残れたな。」


 そいつはニヤニヤした顔で俺にそう言ってきた。


「……。」


 コイツ……なにが言いたいんだ?


「おまえさ、もしかして逃げ出したんじゃないのか?」


 む。いきなり失礼な事を言う奴だ。


 アベルは仲間と同じ所に倒れていたし、逃げたりはしていなかった。


「逃げたりなんかしてねぇよ。」


 史彦の返事にヤンキー面の目つきが鋭くなった。


「あん?何だよその口の聞き方は?」


 ヤンキー面は史彦の首に後ろから腕をぐるりと回してきた。


「弱虫アベルのくせに調子こいてんじゃねえぞ……。こっちこい、誰がボスなのか、ちゃんとわからせてやる。」


 何だ何だ?


 戦地に転生させられて、しかもヤンキーに絡まれた……。


 俺の転生、マジで思ってたんと違う……。


 史彦が本当に泣きそうになったその時だった。


 ガラーン ガラーン


 突然、どこからか大きな鐘の音が鳴り響いた。


「おいおいまさか……。」


 史彦に絡んでいたヤンキー面が血相を変えた。


「魔王軍が攻めてきたぞ!全員配置につけ!」


 上官らしき者が発した号令に弾かれるようにしてヤンキー面は走り出した。


「何してんだ!おまえも来るんだよ。」


 ヤンキー面に怒鳴られ、仕方なく史彦もその後を追いかけた。


 


 

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