第6話

「話は終わったかい」

 突然、おばあちゃんの声が聞こえてきた。


「うわ、ばーちゃんびっくりした」

「あんたたちこそ風邪引くよ、中入りな」

 確かに、指先がかじかんできている。

「まーちゃん、早く中に……ってうわっ」


 望は雅代の表情を見てぎょっとする。

 雅代はしゃがみ込んだままぼろぼろと泣いていた。

 頬がやけに熱く感じる。

「どうしたの?寒い?どっか痛い?」

 望が慌てて近寄ってくる。


「ぜんっぜん痛くない」


 鼻をすすりながら、雅代は答えた。

 自分の袖でごしごしとこすっていると、おばあちゃんがポケットからハンカチを取り出した。


「雅代、相変わらず意地っ張りねえ」


 望と雅代が顔を見合わせる。

 ふっ、と吹き出し、笑い合った。



 望が帰った後、家は急に静かになった。

 あの時と似ている、と思った。

 雪がゆっくり降っている。


「覚えてる?小学生の時、雅代とのんちゃんが泣きながら帰ってきたの。あなた、顔に怪我していて」

 おばあちゃんがタブレットPCを眺めながらつぶやく。


「ああ、そんなことあったかも」

「のんちゃん、あの時いじめられてたのよねえ。帰り道に石を投げられて、雅代に当たっちゃったのよね」


 --ぜんっぜん痛くない!


 望が泣きながら焦っている横で、雅代は涙目でそう答えた。

 自分よりもうろたえている望。じんじんと腫れている頬。悪意を持って投げられた石。

 真っ直ぐ帰ることはとてもできず、バスに乗っておばあちゃんの家に二人で来たのだ。


 あの時、おばあちゃんは優しく撫でてくれたっけ。

 思い出して、雅代は小さく笑った。


「ね、タブレットで何見てるの?」

 雅代は画面を覗き込む。

 そこには、【今日のあったかレシピ】と書いてあり、いくつかの料理が紹介されていた。


「電子書籍のほうが拡大できていいのよねえ」


 おばあちゃんはページを人差し指と親指でつまむように拡大し、にやりと笑った。

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おばあちゃんち しお しいろ @shio_shiiro

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