第5話
「そんな時、助けてくれたのがじーちゃんとばーちゃんだったんだ」
「おじいちゃんとおばあちゃん?」
望がゆっくりと頷く。
「親父に勘当だって言われて、どうしたらいいかわかんなくて、パチンコ行く金もなくて、ここまできてまだパチンコ行こうとしてるんだって思ってまた自分に絶望して、ふらふらしてたら偶然ばーちゃんに会って」
昼間からボーッと公園のブランコに腰掛けてたら、散歩をしていたおばあちゃんに声をかけられたらしい。
あら、のんちゃん?久しぶりねえ。
のんちゃん、という懐かしい響きに、思わず望は反応した。
のんちゃんと呼ぶのは望の家族と、昔から付き合いのあった雅代の家族だけだった。
「よっぽど死んだ顔してたんだろうなあ。家まで連れてってくれて、美味しいご飯食べさせてくれて、そしたらぼろぼろ泣けてきた。まだじーちゃんも生きててさ、俺の話聞いてくれて」
おばあちゃんの作った料理を思い出す。
柔らかな湯気が立つ、優しいご飯たち。
望は真っ白な息を吐いた。
のんちゃん、相変わらず泣き虫ねえ。
ひと通り話終わって一言、おばあちゃんが呑気に言ったらしい。
「それ聞いたら笑っちゃって。そこから親父にもう一度頭下げて真面目に働いて、たまにここ遊びに来させてもらって。やっと返済したなと思ったらじーちゃん死んじゃって。ばーちゃん一人で大丈夫かなって思って」
そうこうしているうちにちょうど結婚し自分の事務所を持つことになったので、こちらに引っ越してきたらしい。
街中からは離れてしまうが敷地も広く自然も多く、望たちはすっかり気に入ったという。
そこから少しずつ、望はおばあちゃんに機械の使い方を教えた。
おばあちゃんは飲み込みが早く、タブレットPCなんかは望よりも早く使いこなしていたという。
「毎日顔出したっていいんだけどそれはそれでばーちゃんも休まらないだろうし。メッセージ機能覚えてくれたらいいな、くらいにしか思ってなかったんだけど、ばーちゃん物覚え良すぎて俺より使いこなしてる」
「そうなんだ……全然知らなかった。おじいちゃんのお葬式も来なかったから」
「帰ってきて手合わせたんだろ?じーちゃんも雅代が頑張って忙しかったことくらいわかってるよ」
励ますように望はそう言った。
ココアがゆっくりと冷めていく。
「頑張るだけじゃ駄目だったんだよなあ……」
最初は楽しかった。
キラキラしたものに囲まれていると、自分もキラキラ輝いているような気がした。
誰も教えてくれないから、雅代なりに勉強をした。
でも、周りの子と対等になることは逆立ちしたって無理だって思った。
都会に馴染みきることもできない。地元にも帰ることができない。半端だから、頑張ることしかできなかった。
そんな時に出会ったのが、彼だった。
スマートで、仕事ができて、おしゃれなお店を知っていて、少しだけ抜けていて、そんな男性に好かれるなんて認められた気がした。
夢中になっているうちに、窓から見える景色のことなんて忘れてしまっていた。
それが今、救いを求めてもどってきてしまっているなんて。
虫のいい話だ。
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